第11~15位
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『散歩する侵略者』 『美女と野獣』『ワンダー・ウーマン』『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
第11位『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
耐えがたい痛みを抱えた男の再生へのわずかな一歩。この普遍的なテーマを扱ったドラマが胸に刺さった理由は、現在と過去のパートの見事な“協奏”にある。荘厳ですらある傑作。(高橋諭治/映画ライター)
ヒットのセオリーにまったくのっとっていないチャレンジングな映画づくりに作り手の気骨を感じた。涙なしでは観られない、本物の感動作。(立田敦子/映画ジャーナリスト)
乗り越えられる傷もある。どうしても乗り越えられない傷もある。過去の悲劇を背負ったまま、閉ざされた心を抱いて生きる男に、自然と感情移入してしまった。(村上香住子/作家、エッセイスト)
大好きな戯曲家ケネス・ロナーガンの監督作なので見逃せない、と思った通りの優れた人間ドラマ。ある事件がきっかけで罪悪感を背負って生きるしかなくなった男が光明を見出すまでの心情の変化を巧みに描写し、見る人に「何があっても人生は続いていく。あきらめないで」と感じさせる。過去と現在を織り交ぜて主人公の心の傷をさぐる構成が抜群だし、彼と兄、そして人生の哀切とはまだ無縁な甥との関係、さらには主人公と同じ傷を背負った妻との関係すべてに深く感情移入できるキャラクター造形でドラマをぐいぐい引っ張っていく筆力は圧倒的。(山縣みどり/ライター)
第12位『散歩する侵略者』
揺るぎないものだった概念の数々が消失し、平穏なはずの日常が不穏な“なにか”に冒されていく……。黒沢清が侵略SFの形を取りながら、いまの社会に漂う空気感を見事に描破。渾身のアクションを見せる恒松祐里も◎!(平田裕介/映画ライター)
この映画は「人は“概念”に縛られて生きている」ことを描いている。我々が「こうあるべき」と思うのは“概念”によるものだというのだ。ならば“映画”という“概念”を抜き取られたとしたら、“映画”はどれほど驚きに満ちたものになるだろうか?と夢想する。(松崎健夫/映画評論家)
劇団イキウメらしい斬新なコンセプトの物語を、黒沢清監督が見事に調理。他の作品では見せたことのないキャストたちの怪演にも注目。特に愛情を怒りで表すツンデレ長澤まさみが◎。(Y.M/エル エディター)
牧師役の東出君が怪しくて最高! 狂気あふれる笑顔だけでも、この映画を見る価値ありです。満島真之介くんも、本人の天真爛漫なキャラクターが生きた演技で好きでした。(M.M/エル エディター)
第13位『美女と野獣』
実写化は大抵違和感を感じるものが多いですが、CGのシーンが多く使われていたなかで、それさえどこなのか感じさせないクオリティーと世界観。気付けば自然と違和感なく世界観に入っていました。(金子真由美/エル・スタイルインサイダー、美容師)
これぞディズニーの王道。ひとりぼっちの晩餐会を歌うシーンは、子供の頃に観たアニメーションを思い出して懐かしくてワクワクしました。 何度でも見返したくなる楽しいミュージカル映画です。(小島藤子/女優)
見た目がイケメンで内面が野獣と、見た目が野獣で内面がイケメンのどっちがいいか、という究極の選択。でもだんだん野獣の目に光る知性が素敵で野獣のままでも良いように思えてきました。また魔女など年増の女性をぞんざいに扱うと大変なことになるという教訓もはらんでいます。(辛酸なめ子/漫画家、コラムニスト)
もともとアニメの『美女と野獣』が大好きで、何度も何度もビデオを観ましたし、ベルの絵を描きました。ピアノの発表会では、同作のメドレーを弾きたいと先生にわがままも言ってしまったほどです。そんなとても思い入れが強い作品だからこそ、実写になると聞いたときは期待と不安で胸がいっぱいに。しかし上映が開始してまもなく、あの歌が聞こえた瞬間、私は泣いていました。素晴らしかったです! 実写になることで失われがちなものを、全部逆手にとって新しい、今にしか作れない美女と野獣がそこにはありました!(宮本彩菜/モデル、クリエーター)
第14位『ワンダーウーマン』
アメコミものに辟易していたところにワンダーウーマンが颯爽と現れて救われました。監督の10年越しの熱意に敬意を表して1票! ガル・ガドットが、スマイル0円サービス少なめで、つねに険しい顔をしているところがよかった。体をガチガチに鍛えたくなった。(山内マリコ/作家)
女子門前払いの多いアメコミ映画の一群で、燦然と輝く女性映画。ラブストーリーの組み込み方も自然で、現代的な女性像を見事に描いたアクション映画だと思います。(よしひろまさみち/映画ライター)
無敵なヒーローが描かれて当たり前のアメコミで、ありがちな色気やか弱さを売りにせず、ワンダー・ウーマンが正義感や使命感から闘う女性戦士に成長していく姿を見せてくれてスッキリしました。(S.N/エル エディター)
この映画を観たら「女って最高!」と思わずにはいられなかった。序盤の女戦士の強く美しい姿、ガルがにこっと笑うだけで場が和む瞬間に特にそう感じました。(M.Y/エル エディター)
第15位『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
才能と努力、自覚と無自覚、家族と自分。寄席芸人は、どんな歴史的な天才であっても、20代で業界のトップにはなかなか立てないのですが。ダンサーという職業の、若くしてトップに立ったものの様々な葛藤に感じ入りました。(神田松之丞/講談師 )
本物の天才。たとえバレエに明るくなかったとしても、彼がどれほど突出したダンサーであるかを痛感します。すらりと長い手足はしなやかで繊細で、自由でダイナミック。強靭な軸で何回転もピルエットを回り、羽のように軽やかに宙を舞う彼の瞳の中には、絶望と光が入り混じっていました。神様はなぜこんなにも多くのものを与えて、こんなにも彼を苦しめるのか。 あまりにも美しくて、永遠に見ていられます。(中田クルミ/モデル、女優、DJ)
セルゲイのリアルが詰まってる映画。芸事に夢中になった事がある人なら、共感できる部分がいくつもあるはず。苦悩以上の幸せ、喜びはどこにありますか?(蘭舞ゆう/舞台女優)
早熟の天才だからこそぶち当たった挫折を、自分のようななんの才能もない人間は爪の先ほども理解できていないけれど、とにかく天才ゆえの辛さがひしひしと伝わったドキュメンタリー。「美人は美人でつらい」と教えてくれた東村アキコ先生の『主に泣いてます』を思い出しました。(K.K/エル エディター)
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『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(ケネス・ロナーガン監督/ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ)
ボストンで孤独に暮らす便利屋のリーが、漁師だった兄の死をきっかけに、海辺の町へ帰ってくる。16歳の甥の後見人に指名され、町に留まざるをえなくなり、辛い過去と向き合うことに。心を閉ざした男リーを演じたケイシー・アフレックは、今年の主演男優賞を総なめ。悲劇に見舞われた家族の再生の物語ながら、ユーモアもあり、彼と甥っ子の不器用な愛情には希望を感じさせる。題名は実際にある町の名前。冬は土地が凍るため、春まで埋葬もできないというのがリアル。
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『散歩する侵略者』(黒沢清監督/長澤まさみ、松田龍平)
黒沢清が劇作家・前川知大率いる劇団「イキウメ」の舞台「散歩する侵略者」を映画化。行方不明だった夫が帰ってくると、別人になっていた。侵略者に乗っ取られ、様子のおかしい夫に妻は戸惑いつつも、関係修復のために奔走する。同時期、一家惨殺事件が起こり、ジャーナリストは生き残りの少女を探していた。家族、仕事、所有、自分、そして愛。それぞれの人にとって大切な概念を侵略者が学ぶことで奪い、相手を抜け殻にするという構図が斬新。
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『美女と野獣』(ビル・コンドン監督/エマ・ワトソン、ダン・スティーブンス)
村の人々から、美しいのに変わり者だと思われている娘、ベル。呪いによって醜い野獣の姿になり、大きな城で捕らわれの身となってしまった王子。ふたりの出会いが奇跡を起こす。アニメ映画史上初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされ、作曲賞と歌曲賞に輝いた『美女と野獣』を、ディズニー自身が実写映画化。エマ・ワトソンが強い意志と優しさを持つベルを演じ、現代的なヒロイン像に息を吹き込む。
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『ワンダー・ウーマン』(パティ・ジェンキンス監督/ガル・ギャドット、クリス・パイン)
女性だけの島で育ち、男性を見たこともなかったプリンセス・ダイアナが海で助けた男性に導かれ、外の世界に飛び出し、人類の未来を救うことになる。アメコミ・ヒーロー界にぶっちぎりの強さの女性キャラクター、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に登場したワンダーウーマンの誕生が描かれる。ある日、不時着したアメリカ人パイロットを救ったダイアナは世界大戦の事情を聞き、二度と故郷には戻れないと知りつつ、ロンドンへと向かう。
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『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』(スティーブン・カンター監督/セルゲイ・ポルーニン)
19歳で英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとなった天才バレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー。人気絶頂期に突然、退団してしまったポルーニン。誰もが魅了された舞台の裏で、彼はどんな苦悩を抱え、葛藤していたのか。カメラは踊ることが大好きだったウクライナの少年時代のプライベート映像から、他者とは一線を画していたバレエスクール時代の練習風景、いまやばらばらとなった家族や友人たちにもインタビューを敢行、貴重な映像資料のもと、素顔のポルーニンを浮き彫りにしていく。