特集 2015/4/9(木)

音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第二回目は、湯山さんが愛してやまない、ユーミンこと松任谷由美の音楽が予見した、現代的男女関係について分析。「男女の間に友情はない!」なんていう意見が古臭いものになりそう?

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相対性理論『ハイファイ新書』

Drawing (C) 2009 Yakushimaru Etsuko

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自由な絆と女の快楽

私とこの曲とは、たとえば、劇団の打ち上げに呼ばれて、徹夜で飲み明かし、なぜだかわからないが、逗子の海岸に朝たどり着いて浜辺で爆睡したときや、スペインのイビサ島で踊り疲れたあとの長風呂から見る青空だったりの頭のなかで常に、この「コバルトアワー」が鳴り響くというような関係だった。
 
ユーミンのこの曲が、私の心を最初につかんだからこそ、私は後年その世界を現実化していったのか、いや、もともと私の本質に「コバルトアワー」の世界があって、それが実人生でどんどん開花していったのか、卵とニワトリのようでよくはわからない。
 
そういえば、曲の冒頭には、「夜の都会をさあ飛び越えて 1960年へ」という歌詞がある。そう、この曲、すでにそれが歌われた70年代初期に、過去のオマージュを含んでいたのだった。高速道路をもちろん「未来に」向けて走っている現実と裏腹に、イメージは過去へと飛んでいる。遊びの真骨頂は、子ども時代のかくれんぼから、登山に釣りにクラブに笑いっぱなしの飲み会まで「時間感覚の喪失」にあるが、その点でもこの曲は抜かりがなかった。
 
ユーミンはその後、バブル時代に青春を過ごした女性たちの共感覚を得たばっかりに、そういう世界観だと捉えられてしまうキライがあるが、この「コバルトアワー」の快楽の本質を理解できる人間は、世の中がバブルであろうと清貧であろうと圧倒的に少数派だ。ペレGや湘南ボーイという名詞の強さに目くらましさせられるが、要するにほとんどの人間は、こういった自立した自分だけの快楽と遊びを見つけられずに、一生を終えてしまう。
 
全くファン層は違うと思うが、「相対性理論」というバンドに、この「コバルトアワー」と同じ感触を持った作品がある。「品川ナンバー」というのがその曲である。私がいっしょに遊びたいのは、そんな感覚を共有できる、世代を超えた「少数派」なのです。

「【第2回】ユーミンが予見したセックスに頼らない男女の絆」トップへ
    • 湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)などがある。最新作『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)では、“男のこじらせ”を分析し、ヒット中。
       
      公式ホームページ/http://yuyamareiko.blogspot.jp/

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