特集 2015/4/9(木)

音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第二回目は、湯山さんが愛してやまない、ユーミンこと松任谷由美の音楽が予見した、現代的男女関係について分析。「男女の間に友情はない!」なんていう意見が古臭いものになりそう?

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Yumi Arai 1972-1976

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歌謡曲が描けなかった男女関係

もうここで、読者の皆さんにはとっとと、YouTubeに飛んでいって曲をチェックしていただきたいのだが、名うてのバックミュージシャン(細野晴臣ほか、ティン・パン・アレーの方々)による、コンガとギターのカッティングにまずイントロからハマってしまう。グルーヴィでキラキラしたサウンドに、あの、ユーミン独特の転調を聴かせたメロディラインがからみ、今聴いても全く古びずに本当にカッコいい。
 
ペレットGT(国産のナイスなスポーツカー)に飛び乗って、高速をすっ飛ばし、夜明けの金星とコバルト色に染まっていく空、彼方の朝焼けを目にするカップルふたりの心象風景は、当時まだまだ幅を利かせていた、四畳半フォークが「嫌い」と言い切った彼女の、面目躍如たるものがあるのだ。
 
さて、子どもにとっての夜の時間は「寝るもの」と決まっている。遊びだって、映画やテーマパークに連れて行ってもらったり、バドミントンや大貧民ぐらいが関の山で、ちょっとおませだった私にしても、原宿に遠征してアイスクリームを食べて帰ってくるぐらい。ところが、高そうな車に乗って、深夜から夜明けまでを「遊んでいる」この歌の男女達はいったい何なんだ?! と激しく、中学1年生の私の心は動揺した。
 
 当時、すでに歌謡曲や演歌は今よりも深くお茶の間に入り込んでいたので、男と女の恋愛沙汰については片想い、失恋、駆け引きに純愛と、子どもでも知る機会はいっぱいあった。しかし、「コバルトアワー」のふたりは、それらの男女の関係のどこにも当てはまらないような空気感があって、中学生の私はそこのところに強く引かれたことを覚えている。

「【第2回】ユーミンが予見したセックスに頼らない男女の絆」トップへ
    • 湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)などがある。最新作『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)では、“男のこじらせ”を分析し、ヒット中。
       
      公式ホームページ/http://yuyamareiko.blogspot.jp/

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