特集 2015/4/9(木)

音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第二回目は、湯山さんが愛してやまない、ユーミンこと松任谷由美の音楽が予見した、現代的男女関係について分析。「男女の間に友情はない!」なんていう意見が古臭いものになりそう?

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Yumi Arai 1972-1976

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恋愛関係ではなく「遊びの共犯者」というムード

つまり、私のこれからの人生には、夜中に私を誘い出してくれる、いや、夜中の私からの誘いに乗ってくれるボーイフレンドがたくさん現れるといいな、というね!!
 
この曲の登場人物のふたりは「あなたは昔、湘南ボーイ 私は昔、横須賀ガール」と言っているのだから、もう、そこでふたりの関係には歴然と距離があることが提示される。何を言いたいかというと、要するに、このカップルの間には、実は恋愛感情はすでに希薄で、その代わりに濃厚なのは、センスや趣味を同じくする「遊びの共犯者」というムード。その昔はいろいろあったかもしれないが、現在は夜を遊ぶことができる得がたい男と女の「友だち」と言ってもいい。そして、これぐらいの軽い男女関係は、結局、現在の自分が最も好む男女関係のスタンスなのだ。
 
ちなみに、男女の関係というとすぐに恋愛が取りざたされた時代は急速に過去のものになりつつある。男女が同じ屋根の下に暮らしても別段スキャンダルではないのは、シェアハウスの一般化で証明済み。同時に結婚した相手が異性として自分のセンスや欲求を受け止めてくれなければいけないという考え方も、今や単なるファンタジーにすぎない。
 
制度や組織に頼らず、セックスがあってもなくても、いかに自分オリジナルの人と人との絆をつくっていけるのかが、生活においても仕事においても重要になってきた現在の男と女のあり方を、ユーミンは何と1972年に予見したのだ。

 
急にどちらかが思い立って、「今から、夜の街に出てこない?!」と言って、言われた方が「いいね」とホイホイ出かけた末の、思いがけない「コバルトアワー」が広がっていたという自由さとその先の喜び。中学1年生のときは、そんなことを想像するよしもなかったのだが、あれから40年、いろいろあって、今現在はといえばなんとかコバルトアワーの世界の住人になっていることを考えると、けっこう感慨深いのですよ。
 
もちろん、私はペレットGTの持ち主でもなく、そんな車でブイブイ遊びほうけている男の友人もいない。しかし、日々を真面目にこつこつと仕事しながら、不意に訪れる、「夜明けの金星 消えゆく空はコバルト」の歌詞に乗せて、Des からAsそしてBに展開するコードの音色のような、「コバルトアワー」な時間に「人生、生きてて良かった」と強く思うような、生き方をすでに自分の人生にセッティング済みなのだ。

「【第2回】ユーミンが予見したセックスに頼らない男女の絆」トップへ
    • 湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)などがある。最新作『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)では、“男のこじらせ”を分析し、ヒット中。
       
      公式ホームページ/http://yuyamareiko.blogspot.jp/

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