音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす新連載「エロスと音楽」がスタート! 初回は、ソウルミュージックが官能に効く理由を分析。デートシーズンに使えるセクシーな気分を盛り上げるソウルミュージックのおすすめナンバーも紹介します!
「今日はお泊まりもアリかも」とついつい思わせるソウルバラードの官能
デートをしたとしても、全然ソノ気にならない、という話を最近、良く聞く。「どうしても、友達同士の関係を越えられないんですよ」と男女ともにお悩みの様子なのだが、私に言わせればですよ、この対症療法は、ズバリ「ソウルバラード」。
黒人文化の中で、セックスの前戯を補完する機能音楽としての研鑽を積んできたかの音楽は、不感症になった心に情熱の火をつけ、官能のエナジーを匂い立たせるはず、という確信があるのだ。そう、今という時代は、ネットでAVにはすぐアクセスできるし、「自然」に任せていたら男と女がくっつくだろう、という予定調和は成立しない。何か、強力な「その気にさせるもの」を、投入させないことには、ムリなのだ。
その昔、若者にドライブカルチャーがあり、「車でデート」というシチュエーションにみんなして入れ込んだ時代、ハンドルを握る男性のエッチに至る戦略のひとつは、「ムーディーな選曲テープづくり」というものだった。男の子たちは、車窓から見える景色のパノラマ狭い車内の密着感に、ムードを高める音楽という三点セットにて、女の子たちがソノ気になってくれることを大いに期待したのである。
強者になると、横浜新道から横横(横浜横須賀道路)に入って、逗葉新道から海沿いの134号線に出るあたりの時間をシミュレーションして、「海岸沿いに出たところらへんで、一発、バラードがかかるようにする」などの、まるでNASAの宇宙飛行士ばりの時間計算を視野に入れた選曲を行っていたのは、本当にソレが効果があったから。
そこに選ばれがちだった音楽は、ブラックコンテンポラリーミュージックと言われる都会的な黒人音楽。今ならばR&Bのくくりに入るそれらの中でも、ソウルバラードと呼ばれる官能的な音楽群は、いつしか、女の子の心に「今日はお泊まりもアリかも」とついつい思わせてしまうような、マジックがあったのである。
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湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)などがある。