アカデミー賞を量産する演技コーチが語る、日本人がハリウッドで活躍するために必要なこと
2017/02/03(金)
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『ダークナイト』でスタニスラフスキー・メソッド(メソッド演技)にハマりすぎたため、不眠に陥りオーバードーズで亡くなったと噂されているヒース・レジャー。

Photo : Aflo

良い演技は俳優の人生を幸せにする

―――俳優としての人生を手助けしているおふたりですけれど、“いい俳優”であるということが“いい人生”につながると思いますか?

Ivana:すべての演技テクニックについてその通りだとは言えないわ。でも私の生徒に関しては、自分のパーソナルな面に良い影響が広がった例はたくさん知っている。身体と精神、肉体面と精神面は切っても切り離せないものなの。もし何らかの病気が精神的な問題、鬱、毒性などと結びついていたとしたら……私はいつも俳優が人生において解決すべき課題を抱えていた場合、一緒に取り組む台本の中で解決できないかと考えるようにしているの。そうすると、その取り組みを通じて多くの俳優が美しい成長を遂げるところを見てきたわ。それで私も成長するのよ。私も話しながら、「ああ、これは私も使える!!」って(笑)。
全員がそうだとは言わないけれど、充分な数の人にとって効果的だったという意味で、私はとても優れた演技メソッドを開発できた、と正直に思うわ。これは俳優の人生そのものも良くするものだから。

Yoko:なるほど。私は……これはおそらく監督としての視点かもしれないけれど、俳優の訓練という意味でも、私が本当に尊重しているのは2つの能力なの。俳優がきちんと“聴く”能力。単に言葉を聞くというだけではなくて……。

Ivana:よくわかるわ。それが最悪の問題よね。世界中の俳優がちゃんと聴かないのよ。ちゃんと聴いていないの。相手が話した言葉を全部聴いたというんだけれど、人はそういう風な聴き方はしないの。私たちは、自分のストーリーのなかで聴くのよ。聴いているときに自分のストーリーを持っていないといけない。なぜなら私たちは人の人生の話を聞くとき、それを自分の人生に合わせて翻訳して聴いているのだから。それが正しい聴き方よね。
続けて。さえぎってごめんなさいね。

Yoko:いやいや、大丈夫。

Ivana:でもあなたの言う通りよ。“聴く”ことは本当に重要。

Yoko:そう。俳優はただセリフを覚えるだけ、つまり、ただロボットみたいになっていることがよくあるの。例えばあなたが台本にない何かを投げかけてきたとしても、私ただ同じように台詞を言うだけ。そうしたら私たちの間に生きた瞬間はない。私はいつもそれを大事にするの。あなたの本では、聴くことがどういう意味なのかを、さらに深堀りしていたわね。それが私には興味深かったわ。
実は私は以前、作詞の仕事をしていた時に“Beautiful Name”という詞を書いたのね。業界は違えどそこでも感じたのは、日本の“教育”は画一的だってこと。いつも一緒に座らされる。もし目立ち過ぎるようなことをすると「出る釘は打たれる」になってしまう。それは正確さとか、品質のためには素晴らしいと思うけど……。

Ivana:そんな状況のなかでこそ、自由が求められるのよね。

Yoko:その通り。アーティストの視点から言うと……。私はいつも、俳優が生み出すアルティナムな(究極の)瞬間が大好きなの。合理的に説明できるものではないんだけれど……よくわからないけれど、何かが起こるの。「これは何!? なんて美しいの!」と、私の頭では考えられなかったもの、誰も考えられなかったものがその俳優から発せられる。その人独特の……。

Ivana:私はそれを「不適切な反応」と呼んでいるわ。

Yoko:そう呼んでいるの?(笑)

Ivana:「不適切な反応」は本当に起こるものなのよ。俳優はいつも頭で考えて「適切な反応」をしようとする。あなたが話していることは「マジック」なの。「マジック」が起こった瞬間なのよ。

Yoko: あー、それが大好き!

Ivana: 泣くべきときに笑ってしまったりね。それは「うわぁ!」って感じ。それは「黄金」の瞬間、それが「ゾーンに入った」瞬間なのよ(笑)。

Yoko:そうね! そしてそれを一度体験してしまうと、中毒みたいになるわね(笑)。何度も体験したくなる。

Ivana:その通りね。実は私もその言葉を使うわ。あんなに最高な「中毒」はないってね(笑)

Yoko:でしょ(笑)イェーイ!(笑) 素敵なことじゃない? ほんとに美しいものだわ。つまり、私にとっては……何と言うか……その人が生きていることを証明するもの。わかる? それは証明となるもの……。

Ivana: 個性の証明となるものね。

Yoko: そう。個性と生き様の証明になる。それは本当に素晴らしいことね。

―――お時間がきてしまいました。

Ivana:なんですって!! もう? ここにカクテルでも持ってきてってかんじよ!

Interpreter: Tetsuya Shiraishi Movie : Maho Tomono

  • Ivana CHUBBUCK(イヴァナ・チャバック)
    ハリウッドが絶大の信頼を置くアクティングコーチ(演技指導者)。指導した生徒にはハル・ベリー、シャーリーズ・セロン、ジム・キャリー、メグ・ライアンといった錚々たるメンバーが並ぶ。「スターコーチ」との異名もとるハリウッドトップのアクティングコーチの一人。現在も自身のスタジオで生徒たちを指導するかたわら、映画の撮影セットにおいて、トップスターたちにプライベートで指導も行っている。人間の深層心理への洞察力に基づくその演技指導は、俳優だけでなく、歌手、脚本家、監督、プロデューサー、経営者、ビジネスエグゼクティブら広い層の支持を集めている。2015年、2016年と日本でもワークショップを開催した。www.ivanachubbuck.com

    奈良橋陽子(ならはし・ようこ)
    1947年生まれ。外交官だった父の仕事に伴い、5歳からカナダに移住。16歳で帰国したのちICUを卒業。その後渡米し、ニューヨークの演劇専門学校で学ぶ。帰国後、ミュージカル「ヘアー」「Monkey」などを演出。舞台・映画『THE WINDS OF GOD』は国連芸術賞、日本映画批評家大賞を受賞。ゴダイゴの「銀河鉄道999」「Monkey Magic」などの作詞家として活躍後、ハリウッド映画の日本人キャスティング・ディレクターとしても活躍中。主な作品にはトム・クルーズ主演『ラストサムライ』、『SAYURI』『バベル』『終戦のエンペラー』などがある。

  • 『イヴァナ・チャバックの演技術:俳優力で勝つための12段階式メソッド』

    ハリウッドの映画業界から絶大な信頼を寄せられる、トップ演技指導者のイヴァナ・チャバックによる演技バイブル。本作では内面や心情の洞察力を高める演技法により、役だけでなく俳優自身のさまざまな障害を克服する方法を解説。単なる演技法の領域を超え、通常の生活にも使えると本国アメリカでは出版と同時にベストセラーになった本作がついに日本語訳で発売!
     
     

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