アカデミー賞を量産する演技コーチが語る、日本人がハリウッドで活躍するために必要なこと
2017/02/03(金)
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1979年公開、『クレイマー・クレイマー』でのダスティン・ホフマン。ハリウッド映画華やかなりしときのスター、ロック・ハドソンの長身、屈強な姿とは正反対。

Photo : Aflo

華やかなハリウッドスターは60年代半ばで終わった

Yoko: そうね。大したことはできない。ハリウッドで面白いことのひとつは、昔のスタジオ全盛の時代はトップ俳優には美しい人達がなっていたわ。ところがおそらく70年代くらいかしら……ダスティン・ホフマンみたいに……とても興味深い俳優たちが出て来たわ。典型的なヒーロー、ハンサムな男という感じではなくて。

Ivana: ロック・ハドソン(※1)のタイプね。

Yoko: そう、そう。そのように変わって来たことが、私には興味深く感じるわ。

Ivana:スタニスラフスキー・メソッド(※2)を使った演技が台頭してきて変わったわね。より真実、“リアリティ(現実)”が求められるようになったの。それまでは大きなスタジオのシステムによって華やかなハリウッド・スターが作られていたけれど。その流れは実際には60年代半ばで終わった。真実やリアリティがより求められるようになったからよ。その辺からもっと生々しい作品が出て来た。『イージー・ライダー』のような。

Yoko: なるほど!

Ivana: それほど大金をかけなくてもよくなった。インディーズ映画も出て来た。スタジオがプッシュする大作だけでなく、アート系の映画も作られるようになってきた。そんな映画も成功していて、それは素晴らしいことだと思うわ。それが私の仕事にもなっているの。真実、リアリティをさらに次のステップに推し進めることが私の仕事だから。次のステップが何かというと、「真実はもたらされた。じゃあ次はその真実を使って行動しなければいけない」ということ。真実を持っていても何もしなければストーリーを語ることはできないわ。

『波止場』のマーロン・ブランド。メソッド演技の権化とも言える彼は、感情に浸ってか『ラスト・タンゴ・イン・パリ』の劇中でレイプまでしたことがわかり、2016年大スキャンダルとなった。

Photo : Aflo

Ivana: 私たちの仕事は、ストーリーを「語る」ことでしょう? 監督、脚本家、俳優がチームになって、物語の始まり、中間点、最後を語らなければいけない。感情に浸っていても、その感情からは前向きの動きが生まれないのよ。

Yoko: その通りね。

Ivana: 感情だけだと、無気力に陥ってしまうわ。
 
Yoko:本当に同感だわ。私が思うに、アメリカでは60年代に始まったようだけど、日本では本当に今始まった印象があるわ。あなたが日本に紹介されるようになったということがまさにそれ! ずっと大昔に紹介されるべきだったと思うけれどね。でも今話をしている「真実を伝える」という演技への取り組み方が少しずつ広がっているの。それこそが俳優の国際言語だから。

Ivana: 実は、俳優に限らず、世界の国際言語ね。

Yoko:世界の国際言語よね! その通り。日本には今でも、古いシステムが残っていて……それこそが日本だ、とは言わないけれど。歌舞伎のスタイルのような伝統的なものが根っこにあって、日本はすぐに変化に向かって飛びついたりすることはない。時間がかかるの。
 
Ivana: 私は世界中のいろいろな国でワークショップをやってきたけど、どこに行ってもそういった意見を聞いたの。我々の文化はそう簡単に変化することはできないってね。でもね、私が学んだことは、人間はどこにいっても同じだということ。人間が抱える問題、欲求、不安、恐れ、配偶者の問題とか、酷い経験をしていたりとか、みんな同じなの。その問題に対しどのように行動するかが文化の違いを創り出すのよ。欲求をどのように外に表すかが文化的環境を作り出すの。でも変化に関して言えば、人は変化を求めていない。それは人間の本能よ。誰も変わりたくなんかないの。自分が今いる場所に留まっている方が楽だから。それが悪だとわかっていても、変わるよりは楽なのよ。変わることはいつだって難しいわ。でも、変化を探求したいと自分が受け入れた時、光が生み出されるのよ。

  • (※1)当時、典型的なアメリカ的美男と称された俳優。

    (※2)1940年代にNYで確立された演技法。役の感情に従って自然に演技を行う。マーロン・ブランドやロバート・デニーロなどの俳優が取り入れたことで有名。古典演劇の方法とは大きく異なる。自分の感情を掘り起こすため、精神的に負担も大きく飲酒や薬物依存になる人もいると批判されることも。

Interpreter: Tetsuya Shiraishi Movie : Maho Tomono

  • Ivana CHUBBUCK(イヴァナ・チャバック)
    ハリウッドが絶大の信頼を置くアクティングコーチ(演技指導者)。指導した生徒にはハル・ベリー、シャーリーズ・セロン、ジム・キャリー、メグ・ライアンといった錚々たるメンバーが並ぶ。「スターコーチ」との異名もとるハリウッドトップのアクティングコーチの一人。現在も自身のスタジオで生徒たちを指導するかたわら、映画の撮影セットにおいて、トップスターたちにプライベートで指導も行っている。人間の深層心理への洞察力に基づくその演技指導は、俳優だけでなく、歌手、脚本家、監督、プロデューサー、経営者、ビジネスエグゼクティブら広い層の支持を集めている。2015年、2016年と日本でもワークショップを開催した。www.ivanachubbuck.com

    奈良橋陽子(ならはし・ようこ)
    1947年生まれ。外交官だった父の仕事に伴い、5歳からカナダに移住。16歳で帰国したのちICUを卒業。その後渡米し、ニューヨークの演劇専門学校で学ぶ。帰国後、ミュージカル「ヘアー」「Monkey」などを演出。舞台・映画『THE WINDS OF GOD』は国連芸術賞、日本映画批評家大賞を受賞。ゴダイゴの「銀河鉄道999」「Monkey Magic」などの作詞家として活躍後、ハリウッド映画の日本人キャスティング・ディレクターとしても活躍中。主な作品にはトム・クルーズ主演『ラストサムライ』、『SAYURI』『バベル』『終戦のエンペラー』などがある。

  • 『イヴァナ・チャバックの演技術:俳優力で勝つための12段階式メソッド』

    ハリウッドの映画業界から絶大な信頼を寄せられる、トップ演技指導者のイヴァナ・チャバックによる演技バイブル。本作では内面や心情の洞察力を高める演技法により、役だけでなく俳優自身のさまざまな障害を克服する方法を解説。単なる演技法の領域を超え、通常の生活にも使えると本国アメリカでは出版と同時にベストセラーになった本作がついに日本語訳で発売!
     
     

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