アカデミー賞を量産する演技コーチが語る、日本人がハリウッドで活躍するために必要なこと
2017/02/03(金)
> <

6/9

『王子と踊り子』の撮影中、名優にして監督のローレンス・オリヴィエがマリリン・モンローのメソッド演技を気に入らず、無理やり矯正しようとして大ゲンカになったエピソードは有名。

Photo : Aflo

エゴにハマる指導者たち

Yoko:素晴らしいわね。そのような環境が生まれた理由のひとつは、彼らは本当に必要としていた。あなたが来ることを望んでいたことが大きいと思うわ。あなたのクラスに出たかったのでしょう。あなたに来てもらって助けてもらいたいと待っていた。私はそう思うわ。

Ivana:私の役割はあくまでも変化を促すことなの。私の名前は忘れて。私は存在しないと思って。彼らが自分を表現する能力を発揮できるように最高の形で手伝うのが私の役割よ。私は少し名前が売れているけれど、それはどうでもいいの。私のことをグル(導師)だと思ってほしくもないし、メンターという見方もいらないと思っているの。私は彼らが自分の道を見つけるのを手伝う役割を担いたいのよ。私はよく「もし私が明日死んでしまっても、あなたは自分で出来るのよ」と言っているの。このことは私にとってとても大事なの。優れた教育者、特にアートの分野の優れた教育者は生徒に心を開くことを要求するのだから、無私でなければいけないの。エゴは捨てるべき。

Yoko:分かるわ。私はエゴにはまっている人をたくさん知っている。

Ivana:そうよね。私が演技のクラスを取っていたとき、それが問題だと思っていたわ。エゴが至る所に見えたの。先生たちの話よ。私は学びたいの。あなたを崇拝したいんじゃないの。

Yoko: そうよね。

Ivana: 私はそのことをしっかり心に留めているの。生徒たちが私を崇拝しそうになったら、「そんなことしないで」って言うのよ。私が言っていることを聞いて、一緒にコミュニケーションをとりましょう! ってね。そう言って私は自分の話をするの。私は本当にめちゃくちゃな人生を歩んできた人間よ。だからみんなが抱えている問題に共感できるの。ほんとにハチャメチャな人生だったから(笑)、ノイローゼで被害妄想、いろんな恐れを抱いたりする。だからみんなの成長の旅路に共感できる。一緒に、チームとして成長するの。私は一方的に教えないわ、一緒に成長するの。

イヴァナ・チャバックによる演技レッスンは世界中で開催されている。これはローマでの一場面。

Photo : Getty Images

Yoko:なるほどね。日本では、時には根深いヒエラルキーがあるの。年上だからという理由で言う通りにしないといけない、とか。例えそのやり方が信じられなくてもね。それだとうまく行かなかったりする。だから私のやり方では、私のことを「先生」と呼ばせずにファーストネームで呼ばせるようにしている。それは日本ではあまり一般的ではないわね。

Ivana: あなたがそうしているのは素晴らしいことだと思うわ。

Yoko: 私たちはいろんなことを共有していると思う。私が美しいと思うのは、とてもアクティブであることね。ただ感情に浸るのではなくて。そんな演技をしている人が多くて、彼らは演技を感情的になることだと勘違いしているわ。だけどあなたが教えていることは違う。私が思うに、これは人生の原則じゃないかしら? 人生において……。

Ivana:プロアクティブ(主体的)であることね。

Yoko:そうそう。そしてポジティブであること。ネガティブなことに大してもね。

Ivana:私は、誰かがあるものすべてを使ってネガティブな体験をする姿を観るためにわざわざ映画館に足を運びたくなんかないわ。それをしたいなら鏡で自分を見ていればいいわよね(笑)。 同じ材料でも、誰かがそれを使って何かポジティブなことをするところが見たいのよ。自分のお金を使うなら、映画が終わった後、気分をよくさせてくれるものを見たい。私の貴重な時間もそう。同じ2時間の映画やテレビ番組、舞台を見るのなら、私はプロアクティブなメッセージの一部になりたいの。だから60年代や70年代は、何を言っているかにかかわらず現実をそのまま見せるものだった。あらゆる芸術分野は成長し、進化しなければいけないわ。今の進化した形で私がやっているのは、リアリティに対して働きかけることによって、人が成長し変化し進化することを助けることなの。

Yoko:そうね。それを実践するための時間的な感覚を考えても……あなたは俳優のために“地図”を描いてくれたわけよね。役者にとって非常に明確になったと思う。そういうものが必要だと思う。なぜなら演技というものはとても……。

Ivana:とっても抽象的だから。

Yoko:そう!(笑) 

Ivana: 抽象的なものに形を与えましょうということ!

Yoko: 役者には全員その“地図”が必要だと思うわ。じゃないと抽象の世界の中で迷ってしまう。

Ivana:抽象には形はないけど、すべてに数学を使わないといけないの。すべてのことには数学が関わるのよ。大学で学んだことについて話すと、実は行動科学と文化人類学を取っていて、私が教えていることの基盤はそこにあるの。私の教えていることは全部そこから来ているのよ。好きだったクラスのひとつでは、数学の方程式を人間の行動にあてはめるということをやっていた。私の本のなかのエクササイズには、アルコール中毒やドラッグ中毒、殺人鬼や死ぬ時の心構えの作り方なんかが出てくるんだけど、それはすべて数学なの。その授業で習ったことなのよ。方程式を人の行動にあてはめるの。人の行動を本物のように再生するためには、正しい情報源にあたらなければいけない。よく俳優の訓練として動物になるゲームなどをやっているけど、私たちは動物じゃないわ。なんで? って思うのよ。そうではなく、人はなぜそのような振る舞いをするようになったのか、その源をたどることよ。要するに、人の特徴を分析することなのよ。

Interpreter: Tetsuya Shiraishi Movie : Maho Tomono

  • Ivana CHUBBUCK(イヴァナ・チャバック)
    ハリウッドが絶大の信頼を置くアクティングコーチ(演技指導者)。指導した生徒にはハル・ベリー、シャーリーズ・セロン、ジム・キャリー、メグ・ライアンといった錚々たるメンバーが並ぶ。「スターコーチ」との異名もとるハリウッドトップのアクティングコーチの一人。現在も自身のスタジオで生徒たちを指導するかたわら、映画の撮影セットにおいて、トップスターたちにプライベートで指導も行っている。人間の深層心理への洞察力に基づくその演技指導は、俳優だけでなく、歌手、脚本家、監督、プロデューサー、経営者、ビジネスエグゼクティブら広い層の支持を集めている。2015年、2016年と日本でもワークショップを開催した。www.ivanachubbuck.com

    奈良橋陽子(ならはし・ようこ)
    1947年生まれ。外交官だった父の仕事に伴い、5歳からカナダに移住。16歳で帰国したのちICUを卒業。その後渡米し、ニューヨークの演劇専門学校で学ぶ。帰国後、ミュージカル「ヘアー」「Monkey」などを演出。舞台・映画『THE WINDS OF GOD』は国連芸術賞、日本映画批評家大賞を受賞。ゴダイゴの「銀河鉄道999」「Monkey Magic」などの作詞家として活躍後、ハリウッド映画の日本人キャスティング・ディレクターとしても活躍中。主な作品にはトム・クルーズ主演『ラストサムライ』、『SAYURI』『バベル』『終戦のエンペラー』などがある。

  • 『イヴァナ・チャバックの演技術:俳優力で勝つための12段階式メソッド』

    ハリウッドの映画業界から絶大な信頼を寄せられる、トップ演技指導者のイヴァナ・チャバックによる演技バイブル。本作では内面や心情の洞察力を高める演技法により、役だけでなく俳優自身のさまざまな障害を克服する方法を解説。単なる演技法の領域を超え、通常の生活にも使えると本国アメリカでは出版と同時にベストセラーになった本作がついに日本語訳で発売!
     
     

    Amazon

SHARE THIS ARTICLES

前の記事へインタビュー一覧へ次の記事へ

CONNECT WITH ELLE

エル・メール(無料)

メールアドレスを入力してください

ご登録ありがとうございました。

ELLE CLUB

ようこそゲストさん

ELLE CLUB

ようこそゲストさん
ログアウト