特集
2015/11/20(金)

音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第4回目は、昨今増殖中の“M男”の快感を表現しているかのようなマイケル・フランクスの名曲から、小悪魔女子×翻弄されるM男のセクシーな関係性を読み解きます!

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イクメンパパの笑みに見る“M男”の境地

その日は、七五三の日曜日で、友人たちと出向いた鶴岡八幡宮は子どもに晴れ着を着せた参拝家族で大いに賑わっていた。今のトレンドなのか、地毛で舞妓さんのような日本髪に結い上げてピンクや赤の着物を着た三歳の女の子たちは、皆、お人形のようで本当に愛らしい。
 
そんな七五三集団の中で、何が気にくわなかったのか、泣き叫んでかんしゃくを起こしているひとりの女の子がいた。千歳飴を地面にぶんぶんとたたきつけ、あの幼児お得意の「~買ってぇ」というわがまま攻撃全開なのだが、この子の場合、そのパワーが凄くて(ああ、こういうファイターが将来、政治家になって世直しをして欲しいモノだ)、両親とおじいちゃんおばあちゃんは立ち尽くすばかり。とうとう、全員が意を決して、「じゃ、そこでずっと泣いてなさいっ」と女の子を捨て置いて歩き出したが、3、4歩、歩いたところで、パパが早くも降参。引き返して、大暴れする三歳女子をひょいっと抱き上げて歩き出したパパの顔は、うんざりどころか、ニコニコニヤニヤと満面の笑み!?
 
えっ、これって「クッキー・ジャーは空っぽ」系? もしかしたら、歌詞のベイビーは、小悪魔女の隠喩ではなくて本当に幼児であり、健全なイクメンパパの「人には言えない快感」を、この曲は歌っていたんじゃないだろうか、と。
 
育児の現場にエロス的な快感があることは、よく知られている。特に女性は授乳などで、そのあたりを体感することができるが、男性はそういうわけにはいかない。体感が無理ならば、じゃあ、観念で! ということで、暴れる赤ん坊=小悪魔、と見立てて、頭の中にマイケル・フランクスの快感サウンドを鳴らし続けてM男「気分」になっているのではないか、という妄想仮説すら浮かんできた。
 
ということで、思わず、「鳩サブレー」の鎌倉本店で、クッキー缶の詰め合わせを買ってしまった私。中身を食べ尽くして、缶が空っぽになった時点で大暴れしても、もう、誰もチヤホヤしてくれるわけではない。そのとおり、Mの楽園から追い出されて、人ははじめて大人になるのですよ。

photo : Getty Images

  • 湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニ ブックス)などがある。最新作『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)では、“男のこじらせ”を分析し、ヒット中。
     
    公式ホームページ/http://yuyamareiko.blogspot.jp/

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