ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を徹底解剖!
2017/10/30(月)
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知的生命体と接触するシーンは、ジェームズ・タレルにインスパイアされたという。

アカデミー賞8部門ノミネート作

『メッセージ』(16)

長編8作目の『メッセージ』(16)は、アカデミー賞で作品賞をはじめとする8部門で候補になるほど高い評価を受けた作品。原作はテッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」。突如地球に12の巨大な宇宙船が現れ、謎の知的生命体とコンタクトを取るため女性言語学者が召集される。彼女は物理学者の男性と共に、知的生命体が人類に伝えようとしている“何か”を探ってゆくというストーリー。エイミー・アダムスが知的生命体と接触する言語学者を演じ、本作でアカデミー主演女優賞候補となった。
 
SF映画に対して評価の厳しいアカデミー賞で、この映画が高く評価された理由。そのひとつは<不寛容>というテーマにある。現代の国際的な問題として、移民や難民、そして人種や宗教を理由に人々を排斥するという現実がある。この映画では、宇宙船が襲来しても世界がひとつにまとまらない、という皮肉を描いている。ある国は情報を隠し、またある国は先手を打とうと企む。地球の危機が訪れても、人間は自己のエゴに溺れるのだ。つまり『メッセージ』は、SFの姿を借りながら現代社会の問題を描こうとしているのだと解釈できる。
 
アカデミー賞では音響賞のみの受賞だったが、<音>に対するこだわりも『メッセージ』の特徴。知的生命体の<声>は、地球上にある自然の<音>を録音したものを幾重にも重ねて創り上げたもの。つまり、実際には存在しないけれど、実際に存在する<音>で構成されているため、フィクションでありながらどこかリアルに感じる由縁ともなっているのである。

text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO

  • ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
    今ハリウッドで最も期待されているカナダ出身の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補となった『灼熱の魂』(10)が日本で紹介されて以来、新作が公開される度に映画ファンの注目を浴びる。今年公開された『メッセージ』(16)では、遂にアカデミー作品賞や監督賞の候補に。今年の映画界最大の話題作の1本、『ブレードランナー2049』が公開中。

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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