ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を徹底解剖!
2017/10/30(月)
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ジェイクが二人!? シュールな『『複製された男』。

ジェイク・ギレンホールと2作連続タッグ

『プリズナーズ』(13)×『複製された男』(13)

これまでの作品からも判るように、ドゥニ・ヴィルヌーヴの監督作品の主人公は女性であることが多かった。それが男性へと転じたのが、長編6作目の『複製された男』(13)。
 
この映画は『プリズナーズ』(13)と同年の公開だが、『複製された男』は2012年に撮影され『プリズナーズ』は2013年に撮影されているため、製作順と公開順が前後している。この2作品にはジェイク・ギレンホールが出演。ギレンホールはヴィルヌーヴの監督として<第二期>を支えた俳優だといえる。
 
カナダ・スペイン合作の『複製された男』は、ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説が原作。大学の講師である主人公が、同僚から薦められた映画の中に自分と瓜二つの俳優を発見するという不条理を描いている。物語が思わぬ方向へ進んでゆくというのもヴィルヌーヴ作品に共通する魅力。この映画には、巨大な蜘蛛やドッペルゲンガーなどの示唆的な表現が点在。その解釈を巡っては今なお議論が続いている。つまり「観る度に新たな発見がある」という点で『ブレードランナー』に通じるところがあるのだ。
 
そして本作をきっかけに、ヴィルヌーヴは自身で脚本を書くのではなく、他人の書いた脚本を監督するようになる。『複製された男』の脚本を手掛けたハビエル・グヨンは、スティーヴン・セガールの娘・藤谷文子の夫でもある。今年日本でも公開されたアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『アフターマス』(16)でも脚本を手掛けている。私生活では不仲と噂されるスティーヴン・セガールとシュワルツェネッガーのふたりが、意外なところで繋がっているという奇縁も一興なのである。

ヒュー・ジャックマンの狂気が凄い『プリズナーズ』。

長編5作目の『プリズナーズ』は、ヴィルヌーヴがハリウッドに製作拠点を移した最初の作品。娘を誘拐した容疑者の男が証拠不十分で釈放されたため、父親が容疑者の男を監禁して真相を解き明かそうとするストーリー。ヒュー・ジャックマンが、これまでに見せたことが無いような狂気の演技を披露しているのも注目ポイント。

ヴィルヌーヴはこの映画で撮影監督のロジャー・ディーキンスと出会っている。『ボーダーライン』(15)、『ブレードランナー2049』でも組んでゆくことになるディーキンスの撮影は、<陰影>を強調するのが特徴。まさに映像の<陰影>を特徴とする『ブレードランナー』の続編にうってつけの撮影監督なのだ。特に映像における<黒>の表現に関しては、世界の撮影監督の中で一番だとの評価もあるほど。例えばそれは、『007 スカイフォール』(12)における終盤の決闘場面に、<黒>表現の豊かさを感じることが出来る。
 
この映画では、車のフロントガラスの向こう側に映る<雨>が、次第に<雪>へと変化する場面がある。つまり、<雨>が<雪>に変わることで父親の心が凍ってゆくことを視覚的に表現しているのだ。ここでもヴィルヌーヴの台詞に頼らない演出は際立っている。

text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO

  • ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
    今ハリウッドで最も期待されているカナダ出身の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補となった『灼熱の魂』(10)が日本で紹介されて以来、新作が公開される度に映画ファンの注目を浴びる。今年公開された『メッセージ』(16)では、遂にアカデミー作品賞や監督賞の候補に。今年の映画界最大の話題作の1本、『ブレードランナー2049』が公開中。

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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