ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を徹底解剖!
2017/10/30(月)
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麻薬戦争の闇に落ちるFBI捜査官をエミリーが熱演。

デル・トロ主演の続編も決定!

『ボーダーライン』(15)

長編7作目の『ボーダーライン』(15)では、再び女性が主役となる作品を監督している。メキシコの麻薬カルテルを壊滅すべく、FBIの女性捜査官が極秘任務に就くというストーリー。エミリー・ブラントが女性捜査官を演じている。
 
この映画でも、台詞に頼らない演出が随所に施されているのが特徴。例えば、捜査現場への移動中に女性捜査官が通りの向こう側へ怪しい車両を発見する場面。いつのまにか車両の姿が消え、彼女は見失ってしまう。通常のアクション場面であれば、“その車両が突然姿を現して主人公たちを襲撃する”という展開を見せるはずなのだが、この映画ではあえて何も起きない。観客は主人公と共に目の前で起こる出来事を目撃し、考える。そして“何も起きない”から不穏さが増す。つまり、この映画全体を支配する不穏さは、“何も起きない”という視覚的情報によるものなのである。
 
原題の『Sicario』は「暗殺者」を意味する言葉だが、日本版タイトルの『ボーダーライン』は「国境」を意味するだけではない。ベニチオ・デル・トロが演じる謎のコロンビア人が体現するのは、善悪の曖昧な「境界線」=「ボーダー」なのである。
 
この“善悪の曖昧な境界線”は、『ブレードランナー』の“レプリカント”バッティ(ルトガー・ハウアー)の姿にも象徴されている。バッティは怨みを晴らすために人間を殺めてゆくのだが、見方を変えれば彼もまた人間に利用された被害者なのである。『ブレードランナー』のラストが感動的なのは、命が尽きる瞬間に“レプリカント”であるバッティが<人生は限りあるもの>と悟る点にある。レプリカントも人間も同じなのだと。

text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO

  • ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
    今ハリウッドで最も期待されているカナダ出身の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補となった『灼熱の魂』(10)が日本で紹介されて以来、新作が公開される度に映画ファンの注目を浴びる。今年公開された『メッセージ』(16)では、遂にアカデミー作品賞や監督賞の候補に。今年の映画界最大の話題作の1本、『ブレードランナー2049』が公開中。

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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