ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を徹底解剖!
2017/10/30(月)
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今年、日本でも公開された『静かなる叫び』。

アートな映像は、初期作から

『August 32nd on Earth(原題)』『渦』『静かなる叫び』

カナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴは、ケベック大学で映画を学び短編映画製作を開始。長編デビュー作となった『August 32nd on Earth(英語題)』 (98)は、いきなりカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映(日本では未公開)された。国際的な評価はデビュー作からスタートしていたといっても過言ではない。
 
主人公の女性は、交通事故をきっかけに<死>を意識しはじめ、突然、男友達との間に子供を作ることを決意するという物語。冒頭、居眠りをしながら運転する映像の斬新さや、<妊娠>のメタファーとなるような実景など、デビュー作から映像表現に秀でていたことを窺わせる。そして、<死>を意識するという物語は、『ブレードランナー』の“レプリカント”たちが自身の寿命を知ろうとする設定と奇しくも重なるのである。
 
長編2作目となる『渦』(00)は、ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞に輝いた作品。不気味な魚(?)が語り部となるこの映画は、飲酒運転で誤って男性を轢き殺してしまった女性が主人公。ここでも<死>は重要な要素となり、主人公の女性は轢き殺した男性の息子と愛し合うようになってしまうのである。地面スレスレの低いアングルと俯瞰のアングルを組み合わせることで、何かに“見られている”感じを訴求させている撮影。また、作品に点在する<青>という色の使い方や、事故場面などで描かれる<雨>というモチーフは、『ブレードランナー2049』の劇中にも散見される演出。
ドゥニ・ヴィルヌーヴの作品は、台詞で多くを説明しない。それは、映像の力と観客の読解力を信じているからこその演出にほかならない。その演出が際立っているのが、長編3作目の『静かなる叫び』(09)。

長編デビュー作『August 32nd  on Earth』。

今年ようやく日本でも公開されたが、本国カナダでは“カナダのアカデミー賞”と呼ばれるジニー賞で歴代最多の9部門で受賞を果たしている。1989年にモントリオール理工科大学で実際に起こった銃乱射事件を描いたこの映画は、極力台詞を削ぎ、全編モノクロで撮影されている。言葉も色彩もあえて排除することで、映画にとって映像と映像を繋いだ“モンタージュ”表現こそが重要であると訴えているようにも見える。そして本作は、『メッセージ』(16)同様に時間経過を一直線ではなく、ランダムに構成した内容となっている。

text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO

  • ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
    今ハリウッドで最も期待されているカナダ出身の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補となった『灼熱の魂』(10)が日本で紹介されて以来、新作が公開される度に映画ファンの注目を浴びる。今年公開された『メッセージ』(16)では、遂にアカデミー作品賞や監督賞の候補に。今年の映画界最大の話題作の1本、『ブレードランナー2049』が公開中。

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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