まずは公開中の新作から
『ブレードランナー2049』(17)
公開当時は一部の評論家や映画ファンの評価に留まり、興行的にも失敗したと言われていたリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』。1980年代は、家庭用ビデオによって自宅でも自由な映画鑑賞が可能になった時代であったことが後押しし、やがてカルト的な人気作となったという経緯がある。その魅力は「観る度に新たな発見がある」という点。『スター・ウォーズ』(77)がヒットした時代に、明るい未来ではなく“ディストピア”としての暗い未来を描いた意外性。“酸性雨”という環境問題を設定に組み込んだ先見性。そして、実用性に重点を置いたリアルな小道具やビジュアル、陰影を強調した映像美など。それらの要素は、後のSF映画に大きな影響を与えている。“レプリカント”と呼ばれる人造人間が、奴隷のような扱いを受けたことから叛乱を起こすという物語の基本設定。そこには、昨今の格差社会に通じるものがある。
ヴィルヌーヴがメガホンをとり、35年ぶりの続編となる『ブレードランナー2049』の物語は、前作の30年後が舞台。ある事件の捜査中、“レプリカント”の製造を請け負う会社の陰謀に辿り着いたブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)。彼は真相を突き止めるべく、30年間行方不明となっているデッカード(ハリソン・フォード)の捜索を始める…というのが今回のストーリー。前作の主人公デッカードはどのように物語へ絡んでくるのか? そして、前作で投げかけられた<謎>の答えは提示されるのか? 独自のビジュアルを持った映像表現で物語を伝えてゆくというドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の演出には、彼が少年時代に観た『ブレードランナー』に対する愛で溢れているのも魅力のひとつ。全国公開中。
text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO
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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
今ハリウッドで最も期待されているカナダ出身の映画監督。アカデミー外国語映画賞候補となった『灼熱の魂』(10)が日本で紹介されて以来、新作が公開される度に映画ファンの注目を浴びる。今年公開された『メッセージ』(16)では、遂にアカデミー作品賞や監督賞の候補に。今年の映画界最大の話題作の1本、『ブレードランナー2049』が公開中。 -
松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。