『ダンケルク』新しいスターを生み出してきた戦争映画に注目!
2017/09/07(木)
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ミュージシャンを役者として起用してきた伝統

戦争では、若者たちが軍役に志願することも徴兵されることもある。つまり戦争を描いた映画には、兵士を演じる若い役者が必要なのだ。そして、多くの若者が戦地に狩り出される姿を描くことで、物語は自ずと群像劇になる。そのため、戦争映画には多くの若い役者が起用されてきたというハリウッド映画の伝統があるのだ。
 
同時に“ミュージシャン”という異業種の人材を、戦争映画に起用してきたという伝統もある。古くは、アカデミー作品賞に輝いた『地上より永遠に』(53)のフランク・シナトラや、『突撃隊』(62)のボビー・ダーリン。さらには『メンフィス・ベル』(90)のハリー・コニックJr.や、『U-571』(00)のジョン・ボン・ジョヴィなど。或いは、ビートルズ在籍中だったジョン・レノンが主演した『ジョン・レノンの僕の戦争』(67)、人気絶頂期のデヴィッド・ボウイが主演した『戦場のメリークリスマス』(83)などがある。日本でも『ローレライ』(05)でKREVAが、『真夏のオリオン』(09)で堂珍嘉邦が、それぞれ映画デビューを飾っているという歴史がある。
 
群像劇であるから、各々の役者の出番は分散される。その中で、既に個性のある人気“ミュージシャン”を起用することは、製作側にとっても出演する側にとってもメリットがあるのだ。製作側はミュージシャンの知名度を利用する。一方でミュージシャン側は、万が一失敗作となったとしても主役ではないので興行的な責任を取る必要が無い。むしろミュージシャンにとっては、新たな挑戦に対する評価を期待できるのである。『ダンケルク』にハリー・スタイルズが起用された背景には、そんなことも関係しているのだ。

群像劇である戦争映画には、これまで多くの若手俳優が起用されてきた。その中には、当時無名であったが後にスターとなったという役者も少なくない。そこで、新しいスターを生み出した戦争映画の名作を5本御紹介する。

text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO, GETTY IMAGES

  • 『ダンケルク』
    第二次世界大戦の真っ只中の1940年。ヒトラー率いるドイツ軍により、イギリスとフランスの連合軍兵士が、フランスの港町ダンケルクに追い詰められた。海岸に残された40万人もの兵士を救出するため、対岸のイギリスから民間の船舶も動員した<ダイナモ作戦>が展開される……。これまでも斬新な世界観で観る者を驚愕させてきたクリストファー・ノーラン監督が、実際に起きた救出作戦を、陸海空それぞれの視点で描いている。緊迫感と臨場感を創り出すことを意識したIMAXでの撮影。極力CGを使わない徹底した実物主義は、博物館から当時の駆逐艦を借りて撮影するなど細部にまでこだわりをみせる。本作は物語らしいものを排除し、極力台詞を削ぐなどすることで、観客がスクリーンの中で戦場そのものを体感するような作品になっている。

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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