特集 2015/1/20(火)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第15回】『ラブストーリーズ』を反面教師とした、男女関係を長続きさせる秘訣とは?

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第15回は、あるカップルの別れから再生を男女それぞれの視点で描いた2作品『ラブストーリーズ エリナーの愛情』『ラブストーリーズ コナーの涙』を斬る!

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幸せな関係に必要なもの

ずっと愛される、相手から永久に大切にされる……、というのが世の中でいう「女にとっての理想的な結婚」だってことになっています。「だからこそ、ちゃんとした女にならなきゃいけない」と自分に課す女性も多い。
 
男はというと、特に“モテる男”だと結婚によって得られるメリットなんて何もない(せいぜい「身の回りのことを奥さんにやってもらえる」か「社会的信用を得られる」か「子どもが欲しい」くらい?)と思っている。なかには、できた男性がいて、「相手のために、自分が変わらなきゃ」と思って一生懸命努力する人もいますが(その努力は素晴らしいと思いますが)こんなに努力してる俺、というドヤ顔がまた奥さんをキレさせる場合もありますよね。
 
結局、人間は恋愛や結婚で「自分がやりたくないことは絶対にできないし、しない」と思うんです。無理をしてると心か体が病気になります。だから、やりたくないことはしなくていい。
 
ただしそれは「自分は、このままでいいんだ」と開き直ることではない。罪悪感や劣等感や被害者意識からくる“義務”から自由になって、改めて「自分は、こう感じ、こう行動する人間なんだ。それは相手から見ると、こういうふうに見えるんだ」とわかることで、人間は自然と成長していく。気がつくと、いつの間にか変わっていたりする。
 
映画の話とは関係ないのですが、たとえば結婚や同棲生活でよくあるのが、男が靴下や服を脱ぎっぱなしにして、女性はイライラして「私は、あんたのお母さんじゃないんだから!」って怒る(もちろん男と女が逆になるケースも多いです)。いや、確かに身の回りのことができないのは良いことではない。でも、ここでイラッとしてるのは「散らかっている靴下を見てイラッとする」という、その人の“心の穴”なんです(もちろん同じように“片付けられない人”のほうには、“片付けられないという心の穴”があいています)。もしかしたらその人が、厳しい親に「女の子なんだから、ちゃんとしなさい」と躾けられて“ちゃんとした人”になれて、でも「本当はちゃんとした人になんかなりたくなかったのに。なぜ私だけが(女だけが)ちゃんとしなくちゃいけないの?」って怒りを感じていて、それを相手にぶつけているのかもしれない。
 
もちろん「イラッとしてないで、あなたが片付けてあげなさい」という話ではありません。問題は「なぜ“片付けられない人”と“散らかっているとイラッとしちゃう人”が、惹かれ合っていたのか」ということです。そこには、たぶん意味があるんです。そこで「自分が絶対に正しいんだ」と正論を相手に押しつけていたら、その恋愛は意味がないことになってしまう。
 
彼女の服の趣味やメイクとかにイラッとしてケチをつけたがる支配的な男にも(女と男が逆になるケースも多いです)、自分が付き合う相手はこういう人でなければならない、と決めつける心の穴があいている。そういう人は「自分が、そういうことを言ってしまう人間である」ということを知るために、そういう恋愛をしてるんですよ。
 
ただ怒って相手を追いつめたり口論するのではなく、相手に「私は散らかってるとイラッとする人間だ」ということをわかってもらい、あなたも「なぜ自分は、散らかっているとイラッとするのか」を考え、相手の目に“散らかっている部屋”はどう見えているのか、を思う。それで「やっぱり、一緒にはいられない」と思ったら別れればいい。
 
相手に正論を押しつけても、相手も自分も変わらないんです。客観的に相手のことを見て、相手の視点で自分のことも見て、相手の目に世界がどう見えているかを知る。それで自分が変わっていくことを恐れず、むしろ、相手と自分が変わっていけることを楽しむ。それが他人との関係を長続きさせる秘訣だと思います。
 
■今回の格言/人はみんな、それぞれの主観で生きています。相手の見ている世界を知ることで、自分の世界も自分の主観なんだということを知りましょう。お互いが見ている世界を共有することで、お互いが少しづつ変わっていくのを楽しめるのが“長続きする関係”なのです。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ラブストーリーズ エリナーの愛情』
    『ラブストーリーズ コナーの涙』
    監督・脚本/ネッド・ベンソン
    出演/ジェシカ・チャステイン、ジェームズ・マカヴォイ
    配給/ビターズ・エンド、パルコ
    公式サイト/http://www.bitters.co.jp/lovestories/
    2015年2月14日(土)~、 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

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