特集 2014/9/30(火)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第12回】『ニンフォマニアック』、セックスを語る女と解釈したがる男

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第12回は、シャルロット・ゲンズブールが“色情狂”のヒロインに扮する『ニンフォマニアック』二部作を斬る!

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オーガズムって何だろう?

やばい映画です。もろに「セックス」を扱った物語ですから、僕としては避けては通れない作品です。そして観終わった今、この映画について皆さんに何をどうお伝えすればいいのか、やや途方に暮れています……。いや、とても面白かったんです。傑作です。では僕は何に困惑しているのか。
 
20代までを美人モデルのステイシー・マーティンが、30代以降を大女優シャルロット・ゲンズブールが演じる、セックスが好きすぎるニンフォマニア、つまり色情狂のジョーという女性がヒロイン。彼女が50年かけて経験してきたさまざまな性行為を、前編Vol.1と後編Vol.2あわせて約4時間かけてガンガン描いていきます。Vol.1を観ると、男性は嫌な気持ちがするかもしれません。登場する大勢のバカな男たちに自分を重ねざるを得ないからです。
 
ジョーの“理想の男”は、シャイア・ラブーフ演じるジェローム。へんてこで頭にくる初体験の相手でもあり、その後も何度も何度もロマンチック(笑)な感じで再会します。これはご都合主義ではなく「何度も何度も“理想の異性”は上書きされていく」という皮肉なメタファーかと僕は解釈したのですが、どうでしょう。
 
数えきれないほど多くの男とセックスしてきたジョーには、ジェロームを含めた3人の男の毛色の違うセックスが必要だとのことです。ここでまた男性の観客は「げっ」と思うでしょう。長い人類史のなかで一部の男は「妻と恋人を別にもつ」といった文化を形成してきましたが、同じことを女性に言われるとビックリしちゃうのです。というか男はなぜ「俺に惚れてる女にとっては、俺のセックスがいちばん。俺のセックスだけで十分」などと根拠なく思い込めるのか。
 
その後いろいろあって、また再会したジェロームと一緒に暮らし始めたら、なんとジョーはセックスでイケなくなってしまいました。セックスだけが生き甲斐だったのに! しかも彼を愛しているのに……。女性のオーガズムは男にとって大きな謎ですが、女性本人にとっても謎なのでしょうか。
 
「外だけで感じるオーガズムは男の射精と同じお手軽なもので、“愛のあるセックス”だったら挿入でイケるはずだ」とか言う人がいます。自分はセックスのことがわかっている・男女の機微について知っていると思ってる人ほど、言う傾向があります。僕もそう言ったことがあります。けれどそんな言説が女性にプレッシャーを与え、傷つけてしまうこともあります。
 
普通の(回数は異常でしたが)セックスでオーガズムを感じなくなったジョーは、さらなる冒険に乗り出します。Vol.2の展開はメチャクチャ早いです。深刻な話のように見せかけて、爆笑と恐怖と非道徳の“変態オンパレード”。監督は『アンチクライスト』では敬虔なキリスト教徒を怒らせる意図があったんでしょうが、今回は真面目に恋愛している人たちを怒らせようとしているのかもしれない。ジェイミー・ベルが調教師を演じるSMシーンに、いわゆる官能作品によくある叙情性は全然ありません。乾いた演技と演出ですが、しかし“じらされること”や“痛み”のエグい甘美さが強烈に伝わってきます。ラース・フォン・トリアー監督、本物の変態です(笑)。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ニンフォマニアック Vol.1』
    監督・脚本/ラース・フォン・トリアー
    出演/シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター、ユマ・サーマン
    配給/ブロードメディア・スタジオ
    公式サイト/www.nymphomaniac.jp
    2014年10月11日(土)~、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開
     
    『ニンフォマニアック Vol.2』
    監督・脚本/ラース・フォン・トリアー
    出演/シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、ジェイミー・ベル、クリスチャン・スレイター、ウィレム・デフォー、ミア・ゴス
    配給/ブロードメディア・スタジオ
    公式サイト/www.nymphomaniac.jp
    2014年11月1日(土)~、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開

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