特集 2014/12/2(火)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第14回】『毛皮のヴィーナス』に見る、“セックスとは演劇である!”

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第14回は、巨匠ロマン・ポランスキー監督が、演出家と女優の二人芝居を官能的に描く『毛皮のヴィーナス』を斬る!

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(C)2013 R.P. PRODUCTIONS - MONOLITH FILMS

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ノーマルなセックスって何だろう?

『戦場のピアニスト』『ローズマリーの赤ちゃん』などの巨匠ロマン・ポランスキーが、“マゾヒズム”の語源になった作家ザッヘル=マゾッホの小説をテーマにした戯曲を映画化。今年80歳のポランスキー監督が、自身の妻を主演に迎えて、オーディションを受けにきた女優と演出家の二人だけの空間を官能的に描きます。
 
舞台演出家のトマ(マチュー・アマルリック)は、突然現れた正体不明の女優ワンダ(エマニュエル・セニエ)についつい乗せられて、台詞読みの相手役を務めることになります。最初はがさつなワンダのことをバカにしますが、いざ演技を始めると彼女は完璧。次第に見る目が変わり、理性的だったトマはワンダのペースに巻き込まれ、自分で書いたキャラを演じているうちに、気づいていなかった己のマゾヒスティックな性癖を知っていくはめに。
 
トマはプライドが高いので、自身の変態性を素直に認められません。脚本の主人公(それは世界で初めてマゾ認定された男です)を「これは俺自身のことではない!」と必死なんですが、変態であることというのは、もしかしたら最初から本人が認めちゃっていたら気持ちよくないのかもしれません。否定していたけれど暴露されちゃうほうが興奮するというか、自我が壊れていく過程が快感なんですね。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、ラストシーンは彼にとっては破滅です。でも、きっと破滅したかったんでしょう。
 
性の役割の交換を体験してみたい人は多いと思います。女装・男装のように外見を逆の性に変えるのか。性はそのままに相手をいじめたり、いじめられたりしたいのか。この映画を観ていると「セックスとは役割だ」「日常でかぶっている仮面を脱ぎすてたり、別の仮面をかぶったりすると楽しい」ということがわかります。もし男性が“実は女性化して、いじめられたい人”で、その彼女が“可愛らしくふるまう相手を、いじめたい人”であれば、お互いにハッピー。それが性癖のマッチングです。
 
僕はときどき「ノーマルなセックスだと言われているものって、いったい何だろう?」と考えます。男性が行為で女性を気持ちよくさせ、女性は反応をすることで男性を楽しませるのが、いまだに世間一般でノーマルってことになってますよね……。それはそれで豊かだしエロいんですけど、その形式に全員が常に縛られている必要はない。個人的に「セックスにおける本質的な快楽のひとつは、相手の前で自分を制御できなくなって“みっともない自分”を見せてしまうこと」だと感じているので、女性が男性を喜ばせるために(あるいは早く終わってもらうために)イッたふりをしてたりしたら、そりゃあ気持ちよくないだろうなと思います。
 
いじめられたい願望や、可愛がられたい願望を密かにもっている男性は非常に多いのですが、付き合ってる彼女の前では言い出せないから、それ専門の風俗店に行ったりする。彼らは普段のセックスで「みっともない自分を見せること」を嫌がる。その結果、まともとされてる男性のオーガズムって、冷静なまま“ただ発射するだけ”になっちゃって、あんなもの全然オーガズムとは呼べない貧しいものですよ。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『毛皮のヴィーナス』
    監督/ロマン・ポランスキー
    出演/エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック
    配給/ショウゲート
    公式サイト/kegawa-venus.com
    2014年12月20日(土)~、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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