【第15回】『ラブストーリーズ』を反面教師とした、男女関係を長続きさせる秘訣とは?
『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第15回は、あるカップルの別れから再生を男女それぞれの視点で描いた2作品『ラブストーリーズ エリナーの愛情』『ラブストーリーズ コナーの涙』を斬る!
相手の視点から世界を見る
映画ではコナーがエリナーに寄り添うことができなかった理由がはっきりと描かれませんが、要するに「あなたの心の傷を癒そうとすると、僕の心の傷が痛むから、できない」ということでしょう。相手がしてほしいことをしてあげたいという気持ちはあるのだけれど、それをすると今度は自分が“自分の心の穴”のせいでイラッとする。そして相手の目に見えている世界を肯定できなくなったときに「その人がどう育ってきたのか」という“心の穴”が見えてくる。
夫が主役の『ラブストーリーズ コナーの涙』でのみ描かれているのは、彼の父親へのコンプレックス。父みたいになりたくないとか、父への憎しみが反転してそれが行動原理になるのは男性にありがちですが、コナーみたいに、嫌っていた父親となぜか同じ職業に就いてしまうというのもよくある。仕事じゃなく人間関係や恋愛でも、たとえば「母親を傷つけた父親」を憎んでいて、それと同じことを自分は絶対したくないと思うのに、同じことを自分が恋愛でしてしまう。それで離れていってしまった相手に今度は執着するというセオリー。好きになったから愛したんじゃなくて「罪悪感を味わいたかったから、そのために愛した」みたいなことが、実は人間にはけっこうあります。
エリナーが家を出たあと、コナーは(エリナーにしてみれば)ストーカーのようになりますが、四六時中ずっと彼女の幻に取り憑かれているわけではない。自分の店の経営もピンチですから、そんな余裕はありません。でも突然目の前に彼女が現れると気持ちをかき乱されて、追いかけてしまう。
男も女も、自分の人生があるわけで、自分だけで考え込んじゃって頭がいっぱいになっているのを相手にぶつけると、相手はキョトンとします。だって相手は相手で、いろいろ別のことを考えているんだから。こちらの話を聞いてほしいからと相手に関係のないことをワーッとぶつけてキョトンとされて、それで「かまってくれない」と感じるというのも、まあ、お互いつらい話ですよね。
じゃあ、そんなふたりが一緒にいるためにはどうすればいいのかというと、お互いが「あなたはそう感じ、そう行動するのね」と捉えるしかないと思うんです。相手の視点に立つというのは「相手に遠慮する」とか「自分を曲げる」ということではない。むしろ徹底的に「相手と自分は違う人間なんだ」と知るということです。しかし、それは同時に「自分を知る」ということでもある。
相手の目には世界が(あるいは自分が)どう見えているのかを知って人は怒ったり悲しんだりしますが、「自分の目に見えている世界」は当然のこととしちゃっていて、客観的には意外とわかってなかったりしますよね。恋愛で苦しむのって“自分の視点”を客観的に知るために、またとない絶好の機会だと思うんです。
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二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
http://nimurahitoshi.net/ -
『ラブストーリーズ エリナーの愛情』
『ラブストーリーズ コナーの涙』
監督・脚本/ネッド・ベンソン
出演/ジェシカ・チャステイン、ジェームズ・マカヴォイ
配給/ビターズ・エンド、パルコ
公式サイト/http://www.bitters.co.jp/lovestories/
2015年2月14日(土)~、 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー