特集
2016/06/08(水)

音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第5回目は、玉置浩二とカエターノ・ヴェローゾの歌声に共通する“心のチューニング効果”を読み解きます!

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カエターノ・ヴェローゾ本人が出演、「ククルクル・パロマ」の演奏シーンがあるペドロ・アルモドバル監督作『トーク・トゥ・ハー』 photo : AFLO

曲ひとつで映画ができるほどの力

玉置浩二と同じようなタイプの歌手として、カエターノ・ヴェローゾというアーティストがいる。彼も同様に自分で楽曲を創るタイプのミュージシャンだが、彼が歌う「ククルクル・パロマ」というメキシコのスタンダード民謡もすごい力がある。
 
歌の内容は、病気で死んでしまった恋人を嘆き悲しんで、ついには死んで、1羽の鳩になってしまった男の話。もちろん、歌詞はスペイン語で聞いてすぐには意味は分からないが、悲しさに近い独特の感情が、心を直撃してくる。ちなみに、カエターノもまた、前妻が車で自宅の門に突っ込むなどの派手なエピソードがあり、色恋沙汰には玉置同様、実生活の明暗を知り抜いた男でもある。
 
ウォン・カーウァイとペドロ・アルモドバルという耳が良い映画監督の二大巨匠が、自作中で、この「ククルクル・パロマ」を映画の超重要シーンに使い(『ブエノスアイレス』と『トーク・トゥ・ハー』)、作品のテーマをほとんどこの曲一曲に託してしまうような、大胆な使い方をしたのは、もうもう「わかっているナ」としか言いようがない。彼らもまた、カエターノの曲と歌声が持つ、強力な心のチューニング効果を熟知していたわけだ。
 
チューニングされるものは何か? それは、愛だの恋だのを凌駕して「生きることの悲しさと宿命」というもはや宗教が扱う領域のものだ。
 
「恋の予感」を含めて、玉置浩二の自作演奏は、曲ひとつで映画ができるほどの力がある。坂東玉三郎はかつて、泉鏡花の『外科室』を映画化し、独特の美意識を見せつけたが、玉置ファンならば、是非、彼の「愛の世界」を映画に喚び活けてもらえないだろうか、と切に思うのです。

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