音楽と官能。私たちの生活に欠かせないこのふたつを、音楽に精通するエッセイストでありディレクターの湯山玲子さんが大胆に、かつ深く語りつくす連載「エロスと音楽」。第3回目は、夏から秋へと移りゆく季節の官能を表現した曲をセレクト。情感あふれる音色とともに、官能指数も「その気」もアップすること間違いなし!
藤原定家の短歌とシンクロする情緒感
こういった、季節の移ろいの感覚を歌ったJ-POPや若いバンドは、最近、全くお目にかかっていなかったが、ひょんなことから、ド・ストライクの曲を発見した。サチモスというバンドの「GIRL feat. 呂布」という曲がそれ。PVこそ、よしず張りの海の家でのリラックスした夏の演奏スケッチだが、その空気感は、冷えていく季節のクールネスの方がしっくりくる。
ボーカルYONCEのちょっとくぐもったシルキーボイスにまとわりつく火照った肌みたいな熱気を、ソリッドで明快なギターカッティングとリズム隊がクールに受け止めていくバランスは、まさに、『ベティ・ブルー』と同様の、夏の終わりの情緒セオリー通り。「ヘイ、girl she is a single eye 寄り道しなって」という歌いかけに、思わず聞いているコチラも、恋の寄り道をしたくなりにけり!
「hold on hold on……」とループされるうちに、気がつけば、心にメラメラと官能の火がついていく。もはや、ブラックミュージックきってのラヴ大魔王、アイズレー・ブラザーズ同様の凄腕を見せてくるこのバンドの平均年齢は、ななななんと23歳。近頃の若者は、全員人生応援歌みたいな歌しか作れないと思っていた矢先のこのオトナっぽい情緒感はなんなんでしょうか!?
ちなみに、実はサチモスの楽曲、私が構成ブレーンとして大きく関わった、テレビ史上たぶんお初と言って良い、女性のための男子グラビア温泉番組『メンズ温泉』に大きく使われているのだ。よくあるバラエティ系の温泉番組と侮ってはいけない。これ、ガチで「男の子たちが、男同士の行動で見せる関係性のセクシーさ」にマジでフォーカスし、サチモスのクールなサウンドはそこに、ワインでいったら、グランクリュ並みの香華をもたらしてくれたわけです。というか、PV観ていたら、彼らで『メンズ温泉』やりたくなっちゃったぜ。サチモス温泉(笑)。
「見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮」とこれは、新古今和歌集に載っている藤原定家の短歌だが、サチモスのこの曲における空間の広がりとセンスは時空を越えて、すでに定家とシンクロ。日本人が季節の移ろいに感じてしまう情緒は、こんな世の中になっても連綿と続いているのです。
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湯山玲子(ゆやま・れいこ)/著述家。ディレクター。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。学習院大学卒。サブカルチャーからフェミニズムまで横断したコラムで人気。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニ ブックス)などがある。最新作『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)では、“男のこじらせ”を分析し、ヒット中。
公式ホームページ/http://yuyamareiko.blogspot.jp/★『エル・ジャポン』11月号(発売中)の「プロ彼氏」特集では、湯山玲子さんが日本男子の意識、生き方の変化を鋭く考察中。そちらもお見逃しなく!