義母の不倫の証拠をプレゼントされて
臆面もなく、「母の不倫の証拠」とも言えるそんな指輪を未来の妻に贈ったジョン・ジョンにとっては、実の父親を3歳で亡くし、母親の再婚はまだ5歳の時。ほとんど接点のなかった継父オナシスが亡くなったのが11歳の時。元大統領である父親像は報道されたものか言い聞かされたものであり、その後は母ジャッキーとテンペルスマンが実質両親としての役割を果たすことになったジョン・ジョン。身の危険を案じた母ジャッキーの意志により、政治への参加は強く反対され、彼の命に関わるような危険な旅やスポーツ、航空機の運転などへの挑戦をしないように制限された彼は、本人自身の政治観や男性像が果てしなく揺らぎ続けていたに相違ない。
となると実父ケネディではなく、アイコンであり続けていた母ジャッキーの当時のパートナー、テンペルスマンの方を身近なロールモデルとして背中を追っていたのかもしれない。そう考えれば暗殺された実父にまつわる指輪でもなく、死別した継父にまつわる目のくらむような宝石でもなく、「死ななかった人」がジャッキーに贈った指輪こそ未来の妻にふさわしいと考えるほうが自然だ。
キャロリンがもらった婚約指輪は、モーリス・テンペルズマンがジャッキーに与えたもののデザイン違いの同じ素材、同じ組み合わせのリングだった。しかもリングの製作にはテンペルズマン自身が関わり、リングの箱はジョン・ジョンのオフィスに届けられたが、彼はそれをドラッグストアの袋に隠していたという。
Text: Ryoko Oh Photo:Getty Images