エディターズPICK
2015/09/28(月)
早耳調査隊がゆく!

ジェンダーはフルイディティが時代のキーワード

ファッションから赤ちゃんの名づけ、そしてトランス・ジェンダーのアイコンまで、“今”を語るためのキーワード“ジェンダー・フルイディティ (ジェンダーの流動性)”。来年のアカデミー賞確実と噂され公開前にも拘わらず今もっとも話題の映画『The Danish Girl(邦題:リリーのすべて)』で描かれた主人公夫婦、ゲルダ&アイナー・ウェゲナーの人生とともにいち早く解説!

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ゲルダ・ウェゲナーのポートレート写真

Photo : Aflo, Getty Images

女性となっても夫しか愛せなかった妻

ゲルダは「わたしの小さなかわいそうなリリー」の死をついに乗り越えられなかった。1936年、「ほぼ一夜にして」ポルタと離婚するとひとりコペンハーゲンに戻るが、リリーを失った後の彼女の作品は流行遅れとされ、その後の主要な芸術の潮流にのることもできなかった。

最後は生活を支えるためクリスマスカードを1枚1クローネで売り、アルコールに耽溺しはじめ、1940年にこの世を去る。もし2人が長生きしていたら、確実にナチズムによる粛清の対象になっていたはず。そして、2人の女性の話は葬られていたはず。

ゲルダ・ウェゲナーがパリに移住後に発表した作品。これらの作風で売れっ子に。

Photo : Aflo, Getty Images

幸か不幸か、ナチズムの被害者にならなかったおかげで、ほぼ半世紀の間忘れ去られていたこの2人の女性は1984年、コペンハーゲンの中古品店で、ゲルダのレズビアンをテーマにしたエロティカを含む作品群が大量に発見されたことで、再び光を浴びる。

彼女たちは「忘れ去られたアールデコの才能」として再評価。現在でも、不法にスキャンされた彼女のイラスト作品やエロティカのポスターはe-Bayなどで大量に出回っているほど。
 
リリーはペンネームを使って自身の死亡記事まで含めた自叙伝の草稿を残しており、2000年、「ランダムハウス」社の編集者、デイヴィッド・エバーショフがアイナーとゲルダとリリーの物語をフィクション小説『The Danish Girl』(邦題『世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語』)として出版し、それまではクィアカルチャーのごく一部の中でしか知られていなかったこの物語が本の邦題通りの内容で話題となった。

ゲルダ役を演じてオスカーノミニーが大きく期待されるのアリシア・ヴィキャンデル。カーラ・デルヴィーニュが共演する話題の『Tulip Fever(原題)』では主演、映画通からカルト的人気を誇る英米合作映画『Ex Machina』では、人間に近づいていくヒューマノロイドという何役をこなした演技派女優。「ルイ・ヴィトン」のキャンペーンにも抜擢され、オスカーノミネートは確実と見られている。マイケル・ファスベンダーと交際していたものの、破局の噂も。

Photo : Aflo, Getty Images

すぐさま映画化の話が持ち上がり、ゲルダを演じる女優は二コール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、マリオン・コティヤール、レイチェル・ワイズという豪華な面々が話題に上ったが、最終的に今もっともアップカミングな国際派スウェーデン女優のアリシア・ヴィキャンデルに決定。初めて実写化されたのが今回の『The Danish Girl』となる。
 

Photo : Aflo, Getty Images

現在上映が決定しているトランスジェンダーを扱った映画はふたつ。こちらと、エル・ファニング主演の『About Ray(原題)』。ところが、この2つはどちらもキャスティングに関する批評が持ち上がっている。それは、トランスジェンダーの役をシスジェンダー、つまり身体的性別と性自認が一致している俳優たちが演じることが正しいのかどうか、という問いである。ヒラリー・スワンクが男性として生きようとしたブランドン・ディーナを演じ、オスカーを手にした1999年の『ボーイズ・ドント・クライ』から16年。性の多様性は製作側ではなく受け手側の方がより力強い声を持つに至った。パリ時代のリリーとゲルダとアイナーの生活はただの愛情深い妻という薄っぺらい表現では語りきれない様々な要素を持っている。そこに一方的な犠牲はなく、諦めもない。全ての軋轢や感情を飲み込み“3人”で乗り切った芸術家人生。パートナーシップとは何か、キャリアや人生の目的とは何か、何かを抱えて生きることとは何か。望みが叶えられるということはどういうことか。様々な問いを私たちはこの作品から受け取り、自分自身に問うことだろう。

Photo : Aflo, Getty Images

Text : Ryoko Tsukada

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