●「子育てのために泣く泣く辞めていく女性を見てきた」
-そういった、「働き方の多様性」と「保育施設」をマッチングさせていくというアイデアを発見できたのは何故ですか?
市長に就任した直後に「保育所待機児童解消プロジェクト」を立ち上げました。そこで、保育所を利用している保護者の皆様に最も身近な、現場の職員に集まってもらい、実際の現場はどうなっているのかを聞いていきました。一番現場に近い人たちが、一番情報を持っている。そうした場を通じて的確にニーズを探ることができました。そして、どこに待機児童が多くいらっしゃるのか、これから増えそうなのはどこかなど、地域ごとに細かい分析をしっかりしてピンポイントで施設を作っていきました。要望が多いところは、やはり駅に近いところです。便利ですから当然です。でも、国の基準では、必ず園庭を広く取らなければならないなど、都心部の駅近くに、認可保育園を作ることは難しい。そこで横浜市は、平成9年から、市独自の認定制度を整え、商業ビルの1室、またはマンションの1室を改装した場合でも、近くに公園があるなどの条件を満たせば、横浜保育室として認定する制度をつくりましたので、その制度を活用して、さらにピンポイントで整備しやすくするために、緊急整備地域を指定するなどの工夫をしました。
-そういう細やかなケアを進めていく上で、ご自身が女性であることでよかったと思う点はありますか?
やはり、女性の生活に根ざした視点は役に立ったと思います。かつて、若い世代が「子育てしなければいけないから」と泣く泣く仕事を辞めていく、そして復帰は難しいという現状を目の当たりにしてきた経験も生きました。
何としても待機児童の問題を解決しなければという切実な思いを持っていましたので、市民の皆様から直接お話を伺うこともしました。さらに、全国のいろいろな自治体の取組も調べました。今、「横浜方式」と言われている施策には、他の自治体の取組をアレンジしたものもあります。もちろん独自の施策もあります。「横浜保育室」は、待機児童解消を目的に、認可外の保育施設を、0~2歳までのお子さんを対象として、市独自に認定したもので、これは全国初で、長い歴史があります。「保育コンシェルジュ」は横浜が初めてつくった制度です。
-そのようにこれまでやれなかった制度を作っていくという上でも、女性がリーダーになるということには大きな意義があると思いますが、これからリーダーを目指す女性たちに必要になってくる資質はなんだと思われますか?
やはり、オープンなコミュニケーション能力。女性のほうが自然体で人に向き合える。これはとても素晴らしい資質です。逆に、相手を慮って踏み込んでいかないところ、ためらってしまうところがあるので、そこは是非チャレンジしてほしい。チャレンジしながら問題点を克服していければよいのではないでしょうか。
今、若い方々は、パートナーに対しても、自分が言いたいことを言うのを遠慮しているように思います。例えば、結婚後も出産後も仕事を続けたいと思った時に、その思いを伝える前に、果たして相手が理解して支えてくれるのか悩んでしまうことがあるのではないでしょうか。そんな風に悩むよりも、まず自分の気持ちをストレートに伝えてみる。「私は働き続けたい。あなたと一緒に暮らして、一緒に乗り越えていきたい」と踏み込んでみることが大事です。そこで、パートナーとの間に問題が起きたなら、一緒に解決することが大事だと思います。
夫婦というのは、お互いの関係をずっと構築し続ける旅だと思います。
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林文子(はやし・ふみこ)
横浜市長。1946年5月5日、東京生まれ。1965年、東京都立青山高等学校卒業後、東洋レーヨンなどでの勤務を経て自動車会社の営業に転職。その後、驚異の実績を誇る“営業マン”として活躍。企業トップとなり、BMW、フォルクスワーゲン、日産自動車を立て直した手腕のため日本の経済界だけでなく、世界中から注目される女性となる。その実績をもとに2009年、横浜市の市長に就任。今年、2013年、“待機児童0”の目標を達成した。
1965~1976年 東洋レーヨン株式会社(現東レ)、松下電器産業株式会社(現パナソニック) 等 勤務
1977年 ホンダオート横浜株式会社 入社後 ホンダクリオ神奈川北株式会社に転じる
1987年 BMW株式会社東京事業部(現BMW東京)入社
1993年 BMW東京株式会社 新宿支店長
1998年 同社 中央支店長
1999年 ファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲンジャパン販売株式会社)代表取締役社長
2003年 BMW東京株式会社 代表取締役社長
2005年 株式会社ダイエー 代表取締役会長 兼 CEO
2007年 同社 取締役副会長
2008年 日産自動車株式会社 執行役員
2008年 東京日産自動車販売株式会社 代表取締役社長
2009年 横浜市長
主な役職第30次地方制度調査会臨時委員
東京女学館大学 客員教授
受賞歴2004年 ウォールストリートジャーナル紙「注目すべき世界の女性経営者50人」選出
2005年 米フォーブス誌「世界で最も影響力のある女性100人」選出
米フォーチュン誌「米国外のビジネス界最強の女性」選出
2006年 日経ウーマン誌「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006」キャリアクリエイト部門1位
ハーバードビジネススクール女性経営者賞 受賞
2008年 米フォーチュン誌「世界ビジネス界で最強の女性50人」選出