●行政側の既成概念を変える
-受け皿が多くなる分、希望者も増えるというのは事実だと思います。今後、そうなった場合、次は何をすればいいのでしょうか?
希望者が増えるということはいいことです。預けたい、働きたいと思っていた方が行動に移してくださるわけですから、きちんと受け皿を作って対応していくべきだと思っています。
そして、丁寧にニーズを探り、寄り添った施策を打ち出していくことが必要です。
横浜市のアンケートでは、未就学のお子さんがいる保護者の方で、現在働いていない方のうち約7割が「働きたい」と回答しました。その働き方としては、約9割の方が「パートタイムやアルバイトを希望」すると回答しました。認可保育園は原則1日4時間以上、かつ月16日以上働いている方が対象なのですが、それよりも少ない時間で預けたい、「週3日でいい」「1日4時間でいい」などとおっしゃる方が圧倒的に多かったのです。
そこで、認可外保育施設を活用した「一時預かり事業」や「幼稚園預かり保育」などのサービスを提供し、「認可保育所しかない」という考えをお持ちの方に対して、多様な保育サービスの中からご自分の働き方に合っているものをご案内することで、ニーズにお応えしていきました。そこで、横浜市は、「保育コンシェルジュ」を市内18の区役所すべてに配置し、保護者の方お一人おひとりに向き合って丁寧に説明しました。すると「私はこのサービスが合っている。認可保育所でなくていい」「うちはこの保育所がいい」と、ニーズとサービスをうまくマッチングさせることができました。
また、ご希望の保育園をいくつもお申し込みいただいたけれども、いずれの保育園にも入れないという場合、今までは、結果通知を郵送するだけで終わっていました。でも、それを受け取った保護者の方は「ああ、入れなかった。どうしよう」と途方に暮れています。そこで、保育コンシェルジュは通知を受け取られた頃にお電話をし、ご事情をうかがい、受けられる保育サービスはないか、一緒に考えるようにしました。そのように丁寧に、ニーズに少しでも沿った保育サービスを、ひとつひとつマッチングさせていきました。それが、大幅に待機児童を減らすことのできた大きな理由のひとつです。働き方の多様性にフィットさせていったのです。
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林文子(はやし・ふみこ)
横浜市長。1946年5月5日、東京生まれ。1965年、東京都立青山高等学校卒業後、東洋レーヨンなどでの勤務を経て自動車会社の営業に転職。その後、驚異の実績を誇る“営業マン”として活躍。企業トップとなり、BMW、フォルクスワーゲン、日産自動車を立て直した手腕のため日本の経済界だけでなく、世界中から注目される女性となる。その実績をもとに2009年、横浜市の市長に就任。今年、2013年、“待機児童0”の目標を達成した。
1965~1976年 東洋レーヨン株式会社(現東レ)、松下電器産業株式会社(現パナソニック) 等 勤務
1977年 ホンダオート横浜株式会社 入社後 ホンダクリオ神奈川北株式会社に転じる
1987年 BMW株式会社東京事業部(現BMW東京)入社
1993年 BMW東京株式会社 新宿支店長
1998年 同社 中央支店長
1999年 ファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲンジャパン販売株式会社)代表取締役社長
2003年 BMW東京株式会社 代表取締役社長
2005年 株式会社ダイエー 代表取締役会長 兼 CEO
2007年 同社 取締役副会長
2008年 日産自動車株式会社 執行役員
2008年 東京日産自動車販売株式会社 代表取締役社長
2009年 横浜市長
主な役職第30次地方制度調査会臨時委員
東京女学館大学 客員教授
受賞歴2004年 ウォールストリートジャーナル紙「注目すべき世界の女性経営者50人」選出
2005年 米フォーブス誌「世界で最も影響力のある女性100人」選出
米フォーチュン誌「米国外のビジネス界最強の女性」選出
2006年 日経ウーマン誌「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006」キャリアクリエイト部門1位
ハーバードビジネススクール女性経営者賞 受賞
2008年 米フォーチュン誌「世界ビジネス界で最強の女性50人」選出