特集 2014/12/2(火)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第14回】『毛皮のヴィーナス』に見る、“セックスとは演劇である!”

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第14回は、巨匠ロマン・ポランスキー監督が、演出家と女優の二人芝居を官能的に描く『毛皮のヴィーナス』を斬る!

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(C)2013 R.P. PRODUCTIONS - MONOLITH FILMS

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性癖のマッチングは重要!

そもそも「女が可愛らしくあって、仕事で疲れた男を癒す」という一面的な性のありようは、近代社会になってから、男を能率よく働かせるために採用されたシステムでした。それ以前は貴族の遊びにすぎなかった“恋愛”というものが、庶民の一夫一妻制を成立させるために一般化されたのです。仕事に疲れた男性が結婚や恋愛に求めるのは、パートナーから癒されたいということ。でも現代の働いている女性は(OLだけじゃなく専業主婦でも)みんな疲れていて「私だって癒されたいよ」って思ってます。
 
“癒し”って言葉は今、めちゃめちゃ簡単に使われてますけど、どうすれば人間は(あなたは)本当に癒されるんでしょう? それは「あなたが何をしたいのか、されたいのか」を理解している、あるいは理解する気のある相手から、その欲望を尊重されることじゃないでしょうか。どちらかの性が一方的に相手を欲望の対象にするんじゃなく、男女それぞれの性が(もちろん同性同士でそれをやってもいいのです)お互いの「したいこと、されたいこと、されたくないこと、したくないこと」を理解しあって、お互いを大切にしあわないと我々は幸せになれないと思います。
 
以下はジャック・ラカンという精神分析家の理論の僕なりの解釈ですが、社会のルールや常識を守って生きている“まじめな人”たちは、全員が一種の神経症のような状態です。弱い人から順に鬱っぽくなっていくか、無意識に他人を圧迫してしまうか。かと言って、おおっぴらにルールを破っている“おかしな人”は、あからさまに迷惑ですから社会から排斥されます。
 
“まじめすぎる神経症の人”でも“迷惑な、おかしな人”でもないのが「倒錯者」である、とラカンは述べました。人間は、この3種類のどれかであると。倒錯者とはつまり「自分の変態的な、社会の常識からちょっとはずれた欲望を、わかっている人」ということです。
 
もちろん変態にも“良い変態”と“悪い変態”がいて、“悪い変態”は迷惑です。痴漢やストーカーを実行するのは、ゆがんだ支配欲の表れで、許すべきものではありません。ひとりで妄想を楽しめているのは“良い変態”ですが、もしあなたが誰かと一緒に楽しみたい“良い変態”で、社会的に普通とされているセックスだと「なんか違うな。これだと私は癒されないな……」と悩むのであれば、気の許せるパートナーとお互いの倒錯した欲望を理解しあい、こっそり共有することが“癒し”になるんじゃないでしょうか。
 
そのためには、パートナー間での欲望のマッチングが重要です。普通で“まとも”なセックスで、実は女性の側があんまり楽しめていないケースって多くないですか? でも、それって自分勝手な男の側も「俺にはまともなセックスをする相手がいる」っていう“男性社会での満足”を得ているだけで、やはり実際には楽しめていないんですよ。肝心の相手とコミットできていないんですから。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『毛皮のヴィーナス』
    監督/ロマン・ポランスキー
    出演/エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック
    配給/ショウゲート
    公式サイト/kegawa-venus.com
    2014年12月20日(土)~、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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