特集 2014/8/29(金)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第11回】フランス映画『ジェラシー』に見る、恋愛における因果応報とは?

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第11回は、ある男女の恋愛模様をリアルに切り取ったフランス映画『ジェラシー』を斬る!

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(C)2013 Guy Ferrandis / SBS Productions

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日常ににじみ出る“愛せないことの悲しみ”

フランス映画界の名匠、フィリップ・ガレル監督による、悲しいラブストーリー。監督の父親の恋愛遍歴を元にした脚本で、監督の息子さんである俳優ルイ・ガレルが主人公に扮します。ルイ君は自分のおじいちゃんをモチーフにした人物を演じるわけです。
 
ハリウッドの大作映画だと「観客に、どういう派手な夢を見させるか」でスタッフとキャストが一丸となりますが、こういう小品だと「監督が見ている夢を、観客が共有する」って感じになる。本作は、そのあたりの手つきがとても繊細です。現代のパリでロケをしたんでしょうが全編モノクロ映像で、登場人物のファッションは今風なんだけど、現代の恋愛模様を描くなら当然出てくるであろう携帯電話やメールといった小道具が注意深く排除されている。観ているほうにも、これが今の若者たちの物語なのか、数十年前に起きた出来事の記憶の幻なのか、はっきりわからない。
 
「自分」と「父」と「子ども」が、まじりあう夢のようなこの物語は、いつの時代にも世界のどこでも起きていた、普遍的な恋愛関係における“愛せないことの孤独”がテーマなんです。人間はバカだから、生まれ変わっても同じことを繰り返すのかもしれません。
 
主人公のルイは、妻と幼い娘がいるのですが、女性にだらしがない。妻子と暮らすアパートを出て新しい恋人と付き合い、その間もいろいろな女性にちょっかいを出してる。まあモテるのはわかる、色気ある男なんですけどね。彼が奥さんから逃げたのは、新しい恋人クローディア(アナ・ムグラリス)を好きになったからではなく、彼がもともと「誰も愛せない男」だからです。同棲とか結婚とかが続いていくと、ルイみたいな人間は生活のなかに“愛のなさ”がにじみ出す。
 
最初の奥さんは普通に会社で働いていますが、ルイは駆け出しの役者だから収入が安定せず、やや鬱屈しています。例えば部屋のドアの開け閉めとか、そういう生活の細かい動き・やり取りを通して、男女がケンカをしているわけじゃないんだけど“何か嫌な感じ”が日常の中に沸き立ってくる。そのやりきれなさを、ガレル監督は告発はせず、もの静かに見つめます。
 
幼い娘が、少年時代の監督自身の分身です。監督がかつて見せられた両親の記憶・父とその恋人の記憶を、子どもの目線から映し出す。少女は父の恋愛に振り回されるけど、父のことも、その新しい恋人のことも、まったく憎んではいません。ただ彼女(つまり監督自身)が目にして心に焼き付けた「母や女たちの悲しい笑顔」と「父の孤独な無表情さ」だけが鮮烈に描写されていく。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ジェラシー』
    監督/フィリップ・ガレル
    出演/ルイ・ガレル、アナ・ムグラリス
    配給/boid、ビターズ・エンド
    公式サイト/http://www.jalousie2014.com/
    2014年9月27日(土)~、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開

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