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愛を手に入れるために必要なこと

フランクは、どうして脱獄をしたんだろう? 彼は根が善人だから、犯してしまった罪にとんでもない罪悪感を抱いていたはずです。だけど、たまたま刑務所の病院で鉄格子のない窓を見て、何かに吸い込まれるように脱走を企ててしまった。彼は無意識に、愛情と出会いたかったんだと思います。脱獄したって警察から追われるんだから、自由になれるわけではない。でも鉄格子の外でアデルとヘンリーに、まるで吸い込まれるように出会った。
 
かつてフランクは、奥さんから愛されなかった。アデルも、夫に捨てられた女性です。それを考えると、いちど愛を失うっていうことは、もしかしたら必要なことだったのかもしれないね。「いま、私は愛を手にしていないんだ」と、自分に嘘をつかずに認めてドン底に堕ちることは(それで「自分は愛される資格がない人間なんだ」って思っちゃったらダメなんだけど)、自分には何が必要なのか、目の前にいる人に対して何ができるのか、それを知るために良いことなのかもしれない。愛の不在から目をそらして人生を生きていける人は、それでいい。でも、いちど失うことで前に進める人もいる。
 
フランクがアデルとヘンリーと一緒に暮らしたのは、わずか5日間ですが濃密な時間でした。それで彼は、自分を肯定することができた。元夫にはアデルの“心の穴”は埋められなかったけど、フランクは、そんな大きな穴を抱えたアデルのおかげで人生をやり直すことができた。
 
長い人生のなかで「誰かの役に立つこと」「誰かのために何かをすること」が、その誰かじゃなくて自分自身を救うことがある。この映画は一見「寂しさを抱えた女×マッチョな逃亡者」という、わかりやすい構図ですが、“男と女は、こうあるべき”とか“子どもには父親が必要だ”とか、そういう話じゃありません。フランクはヘンリーに、力仕事や車の修理や野球など、いかにもアメリカ的な父らしい父が教えそうなことも教えるけど、大人になったヘンリーの人生を助けたのはピーチパイの作り方だった。フランクが少年に伝えたのは“マッチョな男らしさ”じゃなかったんですよ。
 
■今回の格言/いちど愛を失うことで、愛を手に入れられることもある

「【第7回】『とらわれて夏』、愛を失うことで手に入る愛もある」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『とらわれて夏』
    監督・脚本/ジェイソン・ライトマン
    出演/ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン
    配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン
    公式サイト/http://www.torawarete.jp
    2014年5月1日(木)~、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

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