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2人を引き寄せた“心の穴”のマッチング

脱獄した直後、フランクは悪漢を気取ってましたが、もちろん彼にも罪を犯すことになった“事情”がありました。アデルは孤独で、息子の愛だけでは埋められない傷を心に負っていた。脱獄囚が母子の前に現れてしまったのは、彼と彼女の“心の穴”が惹かれあったからだと思います。
 
アデルの存在が彼を引き寄せた。アデルとヘンリーにも、フランクとの出会いで家族を再生させることが必要だった。
 
重要な人との出会いって(映画ではなく現実でも)、偶然はありません。ご都合主義の運命論でもスピリチュアルでもなく、出会わなければならない人とは出会ってしまうものだし、その出会いは覚悟を決めて受け入れざるを得ない。逆に、いつも「いい人いないかなー」とか言って、求めてばかりいる人は合コンに行っても本当に必要な人とは出会えないものです。
 
アデルの場合、かつての結婚で自分は「妻として、女として失格」だと思ってしまい、心を病んだ結果、夫は去っていった。これ、彼女はまったく悪くないのに、「私ってダメかも。見捨てられるかも」と思っていると、必ず相手は去ります。心を病んだのは責められないことなので仕方がないんだけど、「見捨てられる」と思ってしまったら、その通り、切り離されてしまう。
 
この映画の主要な登場人物たち全員を共通して苦しめているのは、“見捨てられる恐怖”と“罪悪感”です。みんなが同じように寂しくて、自分の“心の穴”に振り回されてる。憎まれ役として登場するアデルの元夫(ヘンリーの実父)ですら、そうです。
 
どんな人間にも“見捨てられる恐怖”があって、それは、あらゆる欠乏感の根源かもしれません。大人になっても、結婚していても、寂しがりだったりするじゃないですか。人は一人では生きていけないので「自分を守ってくれる人が自分から離れていってしまうんじゃないか」という恐怖は誰しもが持っているものなんです。
 
アデルの元夫は経済的には裕福だけど小心者です。アデルが心を病む前は、もしかしたら良い夫だったかもしれない。心を病んだ妻が彼のキャパシティを超えて、抱えきれなくなってしまっただけかもしれない。でもアデルは「自分がダメだったせいだ」って自分自身をさらに追いつめる。元夫も、自分が息子ヘンリーを捨てることになったという罪悪感を持つ。その気持ちは元夫の新しい家庭も歪ませ、さらにヘンリーを攻撃することになる。

「【第7回】『とらわれて夏』、愛を失うことで手に入る愛もある」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『とらわれて夏』
    監督・脚本/ジェイソン・ライトマン
    出演/ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン
    配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン
    公式サイト/http://www.torawarete.jp
    2014年5月1日(木)~、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

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