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桃が象徴するエロティシズム

舞台は1987年のアメリカの片田舎、一人息子と暮らすシングルマザーが、脱獄囚の男をかくまって5日間を共に過ごし、お互いに惹かれていくというラブストーリーです。
 
最初は脅されて自宅を脱獄囚フランクに占領されたのに、母親アデルも息子ヘンリーも、彼のことを好きになっていきます。極悪人然として登場したフランクが5日間で風貌まで変わっていくのは、彼が母子に心を開いていく過程でもありますが、女であるアデルの目にフランクの姿が「どう見えているのか」を描写してもいる。本当に人間って、自分の目に映っている姿で他人や世界を認識しているものですね。息子ヘンリーは、出会った時からなぜかフランクをまったく怖がってない。彼は、おそらく「自分ひとりの力では、お母さんを孤独から救えない」ということが身にしみていたんでしょう。
 
映画の前半は、わざとエロ映画みたいな撮り方をしてます。って見えてしまうのも僕の目が、そういうふうに世界を認識しているからかな(笑)。フランクは、まずアデルを椅子に縛りつけて、台所に勝手に入りこんで作った男臭い煮込み料理を、自分一人で食べちゃうのかと思ったら、動けない彼女の口に運んで食べさせる。幼い息子が見ている前で……、とてもエロティックなシーンです。あれって、つらい過去のせいで心を病んでいたアデルが、まさに求めていたことなんですよね。でも男のほうは天然で、そんなこと何も考えてない。
 
やがてアデルの縄は解かれます。近所のお爺さんが庭でとれた桃をお裾分けで持ってきてくれたのを追い返して、あまりにも桃が大量にあるので、フランクと母子はなぜか3人で小麦粉をこねてピーチパイを焼き始めます。それまでフランクは「よけいなことをしやがると息子を殺すゾ」とか言って凄んでたのに、このへんからだんだん緊張感がなくなって、いいお父さんみたいになっていく。
 
このパイにも、もちろんエロい隠喩があるわけです。そもそも近所のお爺さんは美しすぎるバツイチ熟女の歓心をかおうとして下心満載で桃を持ってきたわけで、フランクもその桃をかじりながら「この桃は熟している、腐る一歩寸前だ」とか、わかりやすいことを言ったりして。先月ご紹介した『アデル、ブルーは熱い色』はレズビアンAVとしての鑑賞にもたえる映画でしたが、今回は熟女AVでしたね。タイトルは『熟女のピーチパイ』かな。センスのないタイトルですね、すみません(笑)。
 
面白いのは、明らかに性愛の象徴として桃をこねたりパイ生地をこねたりして、それでアデルもフランクも癒されていくという共同作業に、幼いヘンリーも参加しているところです。これは後にヘンリーの人生の伏線になっていく。

「【第7回】『とらわれて夏』、愛を失うことで手に入る愛もある」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『とらわれて夏』
    監督・脚本/ジェイソン・ライトマン
    出演/ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン
    配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン
    公式サイト/http://www.torawarete.jp
    2014年5月1日(木)~、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

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