特集 2015/4/17(金)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第17回】『ラスト5イヤーズ』、恋愛における“依存と回避”の関係性とは?

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第17回は、あるカップルの出会いから別れまでの5年間を描いたミュージカル映画『ラスト5イヤーズ』を斬る!

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(C)The last five years The motion picture llc

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依存の状態になったら、どうしたらいい?

昔だったら専業主婦といえば、旦那は外でプロの女性と浮気をしてくるかもしれないけれど、お金は稼いでくる。でも家庭には全然コミットしない、そんな回避型の夫をもつ人が大半でした。回避型の夫は実は罪悪感を隠しもっているので、どんどん働く。「亭主、元気で留守がいい」なんて言葉があったように、奥さんがうまく手綱を握ってさえいれば、それで社会全体が(いちおう)うまく、まわっていた。 
 
その頃とは時代が変わりました。この映画でもキャシーが「私は専業主婦には、なりたくない!」と歌い上げるシーンがあります。でも、これは残酷な言い方だけど、キャシーはジェイミーが売れたから嫉妬してるんじゃなくて、もともと「かまってほしい!」という強烈な衝動があったんじゃないでしょうか。それが最初はジェイミーを惹きつけた。キャシーが女優として売れないのは、依存を麻薬のように楽しんでるから。つらいけど、そのつらさが彼女には「気持ちいい」んです。だけど、それをやってる間は不幸である、と本人が気づかないと、変われないんですよ。 
 
依存と回避がペアになって、悪い“共依存”の状態になると、片方がわざと回避的な行為をして相手を怒らせたり、わざと激しく依存させたり、回避側が罪悪感に耐えきれなくなって暴言や暴力行為に発展することもある。依存していたほうも回避していたほうも、また別のもの(アルコールやギャンブルや、深刻な不倫)に依存する危険もあります。 
 
もし自分が依存的な状態になってしまっていることが自覚できたら? 「かまってほしい」という欲求を恋愛以外の、危険がない趣味や気晴らしで分散させる方法もあるけれど、それだと根本的な解決にはならないんですよね。 
 
僕は(これも同じことを何回も書きましたけど)依存性も回避性も、幼いころの肉親との関係で満たされなかったことが、きっと根っこにあると思っています。 
 
自分は、なぜ嫉妬をしてしまうのか。あんなに好きだった人を、なぜ憎んでしまうのか。もしかしたら「親」や「自分」への憎しみを晴らすための身代わりとして恋をしたり憎んだりしているのではないか。あるいは、なぜ回避することで相手を支配してしまうのか。被害者意識や罪悪感だけに心を向けるのではなく、自分を俯瞰して見てみましょう。自分ひとりではなかなか自分のことが見えてこないなら、信頼できる相手に話を聴いてもらうのもいい。ただし、今度はその相談相手に依存してしまう、といった落とし穴には注意して。 
 
程度の差はあれ、恋愛における依存と回避は、普通の男女にも起きがちなことです。この『ラスト5イヤーズ』に限らず、恋愛関係や親子関係を描いたキツい内容と評判の映画を、パートナーと一緒に観て、自分たちのこととして考えてみるのは、荒療治だけど“考えるきっかけ”には確実になります。 
 
映画を観て感情を揺さぶられ、同じ映画を観た人と話し合うと、相手が何を考え何を感じているのかがわかるし、自分で自分のこともわかるし、自分の考えや感じ方も相手にバレます。それは、いいことです。だから恋人同士がデートで映画を観るという習慣が廃れないのかもしれない。家でDVDで観るよりも、映画館のほうがおすすめです。その映画の世界から逃げられないから。 
 
本作品なら、女性はジェイミーに対して怒りを感じるかもしれないし、男はイヤ~な気分になるかもしれない。でも、男が「女って、うざいよね」と思ってるだけだと何も変わらないので、女性がどう感じているのかに目を向けてみる。女性の側も「男って、こう考えてるんだ」「こういう罪悪感をもってるんだ」と、相手の感情がどう動いているのかを知ることが必要です。 
 
■今回の格言/依存と回避は、もともとみんながもってる性質で、どちらかが一方的に悪いということは、ほとんどありません。もし自分の嫉妬や浮気心が、相手を苦しめ、自分もつらいと感じるなら、その原因がお互いの心のどこにあるのかを見つめるために、ふたりでキツい恋愛映画を観ましょう。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。その他の著書に『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)など。新刊『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA メディアファクトリー/ダ・ヴィンチBOOKS刊)が好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ラスト5イヤーズ』
    監督・脚本/リチャード・ラグラヴェネーズ
    出演/アナ・ケンドリック、ジェレミー・ジョーダン
    配給/ブロードメディア・スタジオ
    公式サイト/www.last5years.jp
    2015年4月25日(土)~、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

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