特集 2015/3/9(月)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第16回】『博士と彼女のセオリー』に見る、宇宙と恋愛の法則

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第16回は、天才物理学者ホーキング博士と前妻の半生を描いた伝記ドラマ『博士と彼女のセオリー』を斬る!

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(c)UNIVERSAL PICTURES

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信じているものが違うふたりが向き合う

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病に冒され、声を出すことも立ち上がることもできない体でありながら、物理学上でニュートンやアインシュタインに比肩するといわれる偉大な発見をし、車椅子に乗りパソコンの自動音声機器を使って講演すればユーモア溢れるキャラで人気者。著書も一般にまで広く読まれる世界的なベストセラーとなった英国人スティーヴン・ホーキング博士の、恋と結婚生活の葛藤を中心とした実話です。博士の最初の奥さんであるジェーンさん自身が書いた本を映画化しました。
 
博士を熱演したエディ・レッドメインが本作でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で主演男優賞を受賞ですから、「難病・障碍(しょうがい)を背負った天才が、妻の献身に支えられ……」というストーリーを誰でも想像するでしょう。 天才でもなく難病でも障碍者でもない我々は、“自分と違う、かわいそうで立派な人”に感情移入できるお話、自分を安全圏に置いて“泣ける”感動的な美談が大好物ですよね。
 
でもこの映画で語られるのは、誠実な愛が不幸を乗り越えるシンプルなストーリーではありません(おそらく宣伝では、そちらの側面を強調されるのでしょうが)。実はここには誰でも体験しうる、ごく普通の恋愛関係や夫婦生活で起こりがちな“ヤバさ”が、しっかりと描かれています。
 
映画の冒頭、1963年。ジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)が、のちに博士となるスティーヴンとケンブリッジ大学で出会ったとき、ふたりは人生において大切にしているものが、違いました。あえて“信仰している宗教が違った”と表現してもいいのかもしれません。博士は若いころから神を信じない物理学徒であり、痩せたオタクっぽい風貌。奥さんは敬虔なキリスト教徒で文学(詩)を愛し、“リア充”の友達がいっぱい。
 
そんなふたりが、お互いに興味を抱きます。まず博士がジェーンに一目惚れするのですが、ジェーンも“コミュ障”気味な博士に対して好意をもつ。理系男子好き・メガネ男子好き・ちょっと変わった男子好きの女性なら、キュンとする展開かもしれません。スティーヴンが語る物理学の理論は難しすぎて指導教授以外の誰にも理解できませんが、それを夢中で考えている彼はとてもキュートなのです。
 
考えていること、信じていることが違うふたりが恋に落ちてしまう。人は、価値観が同じだから、同じような世界に生きているから恋をするわけではないでしょう。自分に欠けているものを求めたり、面白がったりする場合も多いからです。
 
ところが、付き合い始めてから、あるいは家族を形成してから、大げんかをしたり、関係が冷えて静かに憎しみ合ってしまうケースもある。それは自分の立場や意地を通すため、その“自分が信じているもの”を盾にとってしまうからです。一例ですが、仕事に生きたい、それ以外に生き方を知らないという信仰の男性(仕事という神様を信じているのです)と、家庭の幸せを大切にしたいという信仰の女性の夫婦の場合。これが働いてる女性であれば、男女が逆になったり、お互いの仕事の歯車が合わないパターンもあります。
 
たとえば妻が夫から大切にされないときに「もっと休みをとってよ」とか「あなたも家事を分担して」と責めるのは正論です。夫が「誰が金を稼いでいると思ってるんだ」「俺は仕事を愛しているんだ」などと逆ギレするのも、彼にしてみたら正論なのでしょう。どちらも本音は、自分のことを許してもらいたい、認めてもらいたい、愛してもらいたいのです。でも信仰を“自分を守るため”に使って相手にぶつけても、正論というのは人から言われると腹が立つものですから、お互いが疲弊するだけです。

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