特集
2016/03/03(木)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第22回】『キャロル』が浮かび上がらせる、恋愛の“光と闇”

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第22回は、ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラ共演の愛の物語『キャロル』を斬る!

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(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

女性が女性に恋をする物語

ケイト・ブランシェット&ルーニー・マーラ、ベテランと若手の二大名女優が共演。今年のアカデミー賞でも主演女優賞と助演女優賞(ていうかダブル主演女優ですよね)にノミネートされた、女同士の恋愛映画です。舞台は1950年代のNY。デパートで店員として働く娘テレーズ(ルーニー・マーラ)と、クリスマスの買い物客としてデパートを訪れた人妻キャロル(ケイト・ブランシェット)が惹かれ合います。
 
女優の年齢差は16歳。おそらく劇中でもそのくらい年上であろうキャロルの美貌にテレーズが目を奪われてしまったのが、ふたりの出会いです。支払いを済ませたキャロルがレジに手袋を忘れていき、テレーズがそれを届けたことで関係がスタートしたわけですが、もしかしたらキャロルはテレーズの“一目惚れ視線”に気づいていて、わざと手袋をそこに置いていったのでは……。まあ、恋というのは、どうやって始めたのだとしても、始まってしまったものは仕方がないし、もちろん同性愛者ではない女性が女性に恋をしたって、お互いが「したい」ならセックスをしたって、かまわないのです。
 
キャロルの夫は裕福だけれど、結婚生活は破たんして離婚寸前、幼い娘の親権を争っている。そのやりきれない寂しさと絶望。テレーズにも彼氏がいます。キャロルと出会う前は「自分は、やがて普通に結婚して子どもを産むのだろう」と漠然と考えていたかもしれないけれど、写真を撮ること(それは当時の“新しいメディア”であり、“女性でも活躍できる新しい職業”だったのでしょう)にも興味があった。
 
当時は、テレーズのように都会で販売員のような職に就いていても、社会的地位も低いし、水商売でなければ収入も低い。あるいはキャロルのように専業主婦として「◯◯さんの奥さん」として生きていくか。どちらにせよ女性が個人として自己肯定感や尊厳をもつことが、なかなか難しい時代でした。キャロルからテレーズへのプレゼントには「私のように専業主婦になったらダメ。もしものことがあったとき、自分の人生を生きられなくなる」というメッセージが含まれていたようにも思えます。
 
キャロルの夫は悪人ではありませんが、妻を「独立したひとりの人間」としてではなく「俺の嫁」としてしか考えられない男性です。テレーズの彼氏も、彼女が自分についてくるのが当たり前だと思っていて、テレーズのキャロルへの感情を「異常だ」と決めつけます。それはまあ自分の存在が否定されたようなものだからそうなるでしょうが、この若者はキャロルが現れなくても、将来テレーズが本気で写真に取り組み始めたら「俺と仕事と、どっちが大事なんだ!」とか言いだしそう。なんだか、今から60年昔の社会を舞台にした物語とは思えないな……。

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