“恋愛体質”とは何ぞや？

いわゆる恋愛体質のOL・志乃（多部未華子）は、ダメな男とばかり関係を重ねてしまいます。真面目そうなサラリーマンの彼氏・正樹（柄本佑）からは「なぜもっと僕を真剣に愛さないんだ！」と詰め寄られてDVを受け、イケメンの同僚・ミツ（小澤亮太）にはワンナイトラブからの“遊びの交際”を提案されてしまう。
 
なにもかもイヤになった志乃は、正樹と別れて会社も辞めて、古いアパートに引っ越して生活を変えました。そこでたまたま隣の部屋に住んでいた新しいバイト先の店長・京志郎（綾野剛）に一目惚れして、またもや運命的な恋（笑）に落ち……。
 
少女を卒業した女性向けマンガの傑作（作・ジョージ朝倉）を原作に、過激なアングラ・パンクバンドのボーカルでもありながら、一時はありとあらゆる日本映画やテレビドラマに出演しているとまで言われた多忙な俳優であり、「プロジェクトX」の渋いナレーションでもおなじみ、田口トモロヲが監督。観ていて恥ずかしくならない、丁寧でリアルな「サブカルあるある映画」としても面白い（たとえば、宮藤官九郎が「阿佐ヶ谷ロフトA」の店長に扮して、なるべくカメラの正面に顔を向けないように演技しているのだけれど、どこからどう見ても宮藤官九郎なので可愛らしい等）のですが、それだけでなく「現代の平凡な女性の“イタい恋愛”あるある映画」としても秀逸です。恋愛依存症の男女をただ笑うだけではなく、観た者が「人を好きになるって、なんなのか」を考えざるを得ない。サブカルチャー好きじゃなくても楽しめます。
 
交際がうまくいかず、毎回揉めごとになってしまう人を、本人に聞こえるところではオブラートに包んで「○○さんって恋愛体質ですよね」とか言いますけど、あれ、本音としては（あくまでも僕の本音ですが）、「メンヘラですよね」って言いたいわけです。恋愛で情緒が不安定化するメンヘラは、女性の専売特許みたいに思われていますが、近年では男メンヘラも増えております。いや、昔からたくさんいたけど目立っていなかった、あるいは社会的に許されていただけかもしれませんね。映画の冒頭で志乃が関わっていた男たちは、執着で視野が狭くなってしまうマジメ男も、女性を侮辱するイケメンのヤリチン（余裕があるようで、実は余裕がない）も、メンヘラです。
 
志乃は恋愛体質ではあるけれど、メンヘラではない。ただ、すぐに男性と付き合ってしまい、それを継続させることができない。部屋で小さな植物を育てるのが趣味ですが、いつも必ず枯らせてしまうことにコンプレックスを抱いている。愛のある生活に憧れ、でも相手の本当の感情になかなか気づけず、自分の感情にもコミットしていない彼女のふわふわした心が、相手の男性のメンヘラ性をさらに煽るのでしょう。都合のいい関係が目的のミツと寝てしまったことは「くやしい」と思ってケンカになり（侮辱されたのだから、当たり前ですが）、逆に、正樹に執着されるとやる気を失う（もちろん正樹はDV男ですから逃げるのは正解なのですが）。京志郎に恋したきっかけは「彼の笑顔が、なにも考えてないみたいで好感がもてたから」。今までの男たちと違って、こじらせた変なプライドをもたない京志郎が“善人”であることを、志乃は直感したのでしょう。
 
ところが、この恋にはライバルがいました。京志郎は美人の恋人あかり（光宗薫）と同棲していて、あかりはアパートの庭で家庭菜園をやって、立派なトマトを育てることができる女です。