【第19回】婚活女性も専業主婦もキャリアウーマンも必見! 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第19回は、シャーリーズ・セロンが女戦士に扮するアクション大作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を斬る!
アクション映画に先入観をもっている人にこそ観てほしい
この連載では、だいたい恋愛や性をテーマにした映画を取り上げていますが、もちろん『マッドマックス~』は恋愛映画じゃありません。「SFだけどおしゃれ」とか「ドンパチだけど男同士の関係が渋くてエロティック」とかでもない。殺風景な砂漠を、狂った形に改造された自動車がひたすら走りまくる映画です。戦う女であるシャーリーズ・セロンとロージー・ハンティントン・ホワイトリーたちは超絶に美しいけれど、男は、へんなあんちゃんとキモいおっさんしか出てきません!
しかしあなたが映画好きなら、だまされたと思ってぜひ観てみてほしいのです。ありがちな状況説明っぽい台詞がまったくなく、ただただアクションとキャラの魅力だけで進んでいくのですが、何の説明もないのに登場人物それぞれが(味方も悪役も)何を思うのか、何のために戦っているのか、そのときの気持ちがとてもよくわかる。静かな場面でも主人公たちは多くを語り合わず、表情と視線を通わせる。繊細な演出です。超絶に危険なカースタントが、まったく手を抜いていない。驚愕します。強烈な情熱と高い意識で作られた映画であることが、画面から伝わります。いつも僕を美しい恋愛映画に連れていってくれるこの連載担当の女性編集者のHさんが、観終わった後でヒャッハー状態になって「二回目も観たい!」と言っていました。そんな映画です。
オーストラリアで誕生した『マッドマックス』シリーズの続編であり、30年ぶり(!)のエピソード4なのですが、昔の3部作を観ていなくても、予備知識として以下の何点かだけ押さえておいてもらえれば大丈夫です。
1. かつて3部作で主人公マックスを演じたのは若き日のメル・ギブソンで、彼はこれで大スターになった。1は、暴走族どもに妻子や親友を殺された警官マックスがスーパー改造カーで走りまわって復讐する話。
2. 旧3部作の1と2の間で、とつぜん脈絡なく世界大戦が起きて地球の文明は崩壊、舞台は一面の砂漠になりました(1がヒットして予算が増えたんで、次は砂漠でロケしようということになったのでしょう)。復讐は遂げたけれど本人は生き残ってしまったマックスが、2では弱い者いじめをしている別の暴走族と戦って新世界の救世主となる。この暴走族は核戦争を生き延びた暴走族なので、衣装や乗り物も異様な感じに進化。あの人気マンガ「北斗の拳」の元ネタといわれています。
3. 今回の『怒りのデスロード』を監督したのは旧3部作の監督ジョージ・ミラー。つまりシリーズの産みの親。69歳でこんなに激しい映画を撮ったクソ元気な爺さんです。彼はこの30年の間に『ベイブ』や『ハッピー フィート』といった“動物ほのぼの映画”を監督して、それもヒットさせ、そして再びこの荒々しい世界に戻ってきたのでした。
4. 原題は『MAD MAX Fury Road』。「fury」は「激怒」「憤怒」ですが、語源は「復讐の女神」「怒りの女神」を意味するそうです。もちろんシャーリーズ・セロン演じるヒロイン、フュリオサのことです。「怒りの死の道」じゃなくて「怒る女たちの道」なんです、ほんとは。
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二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。その他の著書に『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)など。新刊『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA メディアファクトリー/ダ・ヴィンチBOOKS刊)が好評発売中。
http://nimurahitoshi.net/ -
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
監督/ジョージ・ミラー
出演/トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト
配給/ワーナー・ブラザース映画
公式サイト/http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/
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