ヒラリー落選に未だ沈黙中。ビヨンセが政治へ傾倒していった8年間を分析
レディー・ガガやケイティ・ペリーなど、ヒラリー・クリントンの選挙選に力を注いだセレブは数多くいるが、なかでもビヨンセは別格。Jay-Zとともに、オバマ大統領時代から全面的なサポートを惜しまず、この8年間、生み出す作品の政治色もどんどん濃くなっていた。今年リリースしたアルバム『レモネード』のミュージックビデオやツアーは、黒人女性としてのアーティスティックな面で彼女の理解と功績の進化を支えている。そしてパフォーマーとしての彼女の進化と並行して、公の場でのビヨンセの政治的な行動も変化し、成熟していった。今回、ヒラリーが破れてしまったことで、数多くの民主党支持セレブが嘆きのツイートを行っていたが、投票から約2日経った11月11日現在も、ビヨンセは沈黙を貫いている。彼女がいかに政治に傾倒していったか、その変遷を確認しながら、次なるアクションを待ちたい。
ビヨンセは11月2日に行われたカントリーミュージック協会賞の授賞式にも出演した。ビヨンセは曲を使って何かをやんわり示唆する達人である。この日は「Daddy Lessons」をパフォーマンスし、ナッシュビルのステージを政治的な意味で満たした。彼女とディクシー・チックスは無邪気に「テキサス、テキサス」と歌ってみせた。テキサスはビヨンセとディクシー・チックスの故郷である。同時に南北戦争から何十年も経っているにもかかわらず、白人だけで予備選挙を行い、黒人から選挙権を剥奪した州でもある。違憲とされる有権者ID法を可決し、IDを取得することができない貧困者(その8割がヒスパニックか黒人)から選挙権を奪ったのである。またテキサスには多くのハリケーン・カトリーナで被災者が避難している。ビヨンセは「Formation」のビデオでこのハリケーン・カトリーナをモチーフにしているが、この災害はテキサス州出身のジョージ・W・ブッシュ大統領の政権を揺るがせた。さらにディクシー・チックスは2003年「ブッシュ大統領が同じテキサス州出身なのが恥ずかしい」と発言し、ブッシュ支持者からバッシングを受けている。ビヨンセが「テキサス、テキサス」と歌ったことには意味があったのである。
2009年にビヨンセがオバマ大統領夫妻のために歌った「At Last」に政治的な意味があったように、この授賞式で彼女が歌った「Daddy Lessons」には他にも多くの意味が込められている。
この曲の歌詞には銃と聖書に頼る、尊大な南部の男が出てくる。彼はいつまでも娘のそばにい続け、守ることはできないと気がついている。彼はアメリカ国憲法の修正第2条「国民が銃を保持する権利を侵してはならない」を盾に、娘に銃の使い方を教え、彼女自身や母親、妹たちを守るように教える。もし悪い男、つまりトラブルが訪れたら、撃てと教えるのである。
Translation & Text: Yoko Nagasaka Photo: Getty Images