ヒラリー落選に未だ沈黙中。ビヨンセが政治へ傾倒していった8年間を分析
レディー・ガガやケイティ・ペリーなど、ヒラリー・クリントンの選挙選に力を注いだセレブは数多くいるが、なかでもビヨンセは別格。Jay-Zとともに、オバマ大統領時代から全面的なサポートを惜しまず、この8年間、生み出す作品の政治色もどんどん濃くなっていた。今年リリースしたアルバム『レモネード』のミュージックビデオやツアーは、黒人女性としてのアーティスティックな面で彼女の理解と功績の進化を支えている。そしてパフォーマーとしての彼女の進化と並行して、公の場でのビヨンセの政治的な行動も変化し、成熟していった。今回、ヒラリーが破れてしまったことで、数多くの民主党支持セレブが嘆きのツイートを行っていたが、投票から約2日経った11月11日現在も、ビヨンセは沈黙を貫いている。彼女がいかに政治に傾倒していったか、その変遷を確認しながら、次なるアクションを待ちたい。
第2期目:2012年から2016年
オバマ大統領の再選は、2008年の選挙のとき以上に人種差別問題に対する解決策にはならなかった。オバマ大統領の再選後1年半の間に、フロリダ州で黒人少年トレイボン・マーティンがジョージ・ジンマーマンに、ミシガン州で黒人女性のレニーシャ・マクブライドがセオドア・ウェイファーに、エリック・ガーナーがニューヨーク市警の警官に、オハイオ州のウォルマートでジョン・クロフォードが警官に、ミズーリ州ファーガソンで黒人少年マイケル・ブラウンが警官によって殺された。これらの殺人に抗議して「黒人の命が問題だ(Black Lives Matter)」という社会的な運動が起きたのである。
おそらくオバマ大統領がホワイトハウスの執務室にいる、その事実がこの抗議活動に火をつける一因になったと言える。なぜならオバマ大統領の存在が、黒人もアメリカ国民であり、他のアメリカ国民と同じ奪うことのできない権利を持ち、自分たちが望む政治的な結果を得るために政治的意思を行使できるということを、思い出させるからである。
ビヨンセもまた、大統領と同じように衝撃的な第2期目を経験していた。彼女は自らの名前をつけた5枚目のアルバム『ビヨンセ』をリリースし、彼女の考えるフェミニズムと完璧さを堂々と宣言した。まだ政治的な意味は帯びていないが、極めて冷静なものだった。
依然としてオバマ大統領の熱心なサポーターではあった。しかしビヨンセは大統領を応援するシンガーから、黒人政治の歴史に向き合い、黒人をまとめ組織を立ち上げていく存在へと変わっていくのである。
Translation & Text: Yoko Nagasaka Photo: Getty Images