特集
2017/03/24(金)
福田フクスケの「ドラマのようには生きられない」 Vol.3

だから、そういうのを楽しむドラマなんです―「カルテット」は灰色のパセリたちへの賛歌である

高橋一生の萌えスマイルの攻撃力とファッションセンスの妙を実感したTBSドラマ「カルテット」。最終回を迎え賛否両論を巻き起こした、話題のドラマを福田フクスケ氏が物語を象徴する5つのワードで斬る!

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第7話より

(c)TBS

【グレーの肯定】良いも悪いも、曇りは曇り

カルテットのメンバーが最初にカラオケボックスで出会ったのは、偶然を装った故意だった。だが、その故意は運命に書き換える=≪反転させる≫こともできる。 “友だちのフリ”という嘘が、やがて本当の友だちになったように。赤の他人同士が、頭から同じシャンプーの匂いをさせる疑似家族になったように。
 
男と女、夫と妻、恋人と家族、片想いと両思い、夢と現実、プロとアマチュア、アリとキリギリス、加害者と被害者、ニセモノと本物、そして、嘘と本当。
 
このドラマは、この世のあらゆる対極にあるもの同士が、白にも黒にも≪反転≫しうる≪両義性≫を持つことを肯定する。
 
それは言い換えれば、主題歌“おとなの掟”が、「白黒付けるのは恐ろしい」「自由を手にした僕らはグレー」と歌うように、≪白でも黒でもないグレー≫であることの肯定だ。
 
思えば、第1話の時点ですでに、晴れよりも曇りが好きという真紀とすずめによって、「良いも悪いも、曇りは曇りですよね」と≪グレー≫はゆるやかに肯定されていた。第9話の別れ際にも、ふたりはともに空を見上げ、「曇ってるね」「曇ってますね」と、お互いの心を通わせる。
 
ここで、彼らもまた、ドーナツの穴のように欠点だらけな、世の中で白にも黒にも属することができない≪グレー≫な人たち であることを見逃してはならないだろう。
 
奇しくも、第6話で幹生の元カノ・水嶋玲音を演じた大森靖子は、新曲“ドグマ・マグマ”の歌詞の中で、「男と女とそれ以外」「白黒黄色それ以外」「YESとNOとそれ以外」と二元論に回収できないマイノリティの存在に着目し、「それ以外はなかったことにされました」と全体主義へのアゲインストを示している。
 
つまり≪グレー≫とは、 白か黒かを迫られる世の中で、「それ以外」としてなかったことにされてしまう人たちのこと でもある。
 
そして何を隠そう、「カルテット」の脚本家・坂元裕二はこれまでの作品でも、なかったことにされがちな「それ以外」の人々や、「それ以外」の感情に、常に寄り添って作品を描いてきた。唐揚げではないパセリのほうに、「センキュー」と言い続けてきた作家なのだ。
 
好き嫌いや、食べる食べないではなく、世界には確かにパセリが存在することを、ただ肯定することが大切なのである。
 
だから、最終回でも4人の片想いは報われないし、夢は叶わないし、真紀がなぜ戸籍を買って偽名を名乗ったのかは、最後まで≪グレー≫のまま明かされない。
 
しかし、それでいいのだ。
 
第9話で、B級映画『スターシップVSゴースト』を観るメンバーに、宇宙も幽霊も出てこないことを指摘された別府が、こう語りかけていたのを思い出してほしい。

別府「だから、そういうのを楽しむ映画なんです」

そう、坂元裕二の作品は、いつだってそういう≪グレー≫の機微を味わうためのドラマなのだから。

  • フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
     
    Twitter @f_fukusuke 

  • (c)TBS

    「カルテット」(TBS)
     
    声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成。登場人物全員がどこかしらに抱える心の穴や生き辛さを、研ぎ澄まされた台詞で優しく紡ぎ出し、「視聴率以上の価値がある」と多くの人に支持された終了した。最終回は民放公式ポータルTVer(ティーバー)で、3月28日(火)21:58まで配信。 
     
    公式Twitter/ @quartet_tbs 
    公式Instagram/ @quartet_tbs  
    公式HP/ http://www.tbs.co.jp/quartet2017/

Text : Fukusuke Fukuda

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