特集
2017/03/24(金)
福田フクスケの「ドラマのようには生きられない」 Vol.3

だから、そういうのを楽しむドラマなんです―「カルテット」は灰色のパセリたちへの賛歌である

高橋一生の萌えスマイルの攻撃力とファッションセンスの妙を実感したTBSドラマ「カルテット」。最終回を迎え賛否両論を巻き起こした、話題のドラマを福田フクスケ氏が物語を象徴する5つのワードで斬る!

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3/5

第8話より

(c)TBS

【反転】“巻き戻し”と“裏返し”の連鎖

物語が大きくうねり出すのは第5話の終盤。本作きってのトリックスターである来杉有朱(吉岡里帆)が、「人間関係ってどれも“ズボン履いてるけどノーパン”みたいなことじゃないですか」と、人間の建前と本音=≪表と裏≫を暴き立てることがきっかけとなる。
 
有朱「だって、夫婦に恋愛感情なんてあるわけないでしょ。そこ白黒はっきりさせちゃダメですよ。したら裏返るもん、オセロみたいに。大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、大好き、殺したい!  って」(第5話より)
 
有朱のこの「オセロみたいに裏返る」 という台詞を起点にして、物語は相反するものがまさに≪反転≫していく展開を見せることになる。
 
第6話は話の大半を、真紀と失踪していた夫・幹生(宮藤官九郎)の夫婦の回想に費やし、結婚して家族が欲しかった真紀と、結婚しても恋人同士のようでいたかった幹生が、いかにすれ違っていったのかを残酷なまでに克明に描き出した。「欲しかったものがお互い逆さになってて」という真紀の台詞が、文字通りふたりの関係の≪反転≫ を表している。

第7話より

(c)TBS

第7話もまた、全編が≪反転≫ という記号に満ちていた。

いつもならエンディングにかかるはずの主題歌“おとなの掟”が序盤に流れる。幹生と揉み合ううちにベランダから転落し、死んだかのように思われた有朱が生き返る。有朱が乗ったカルテットのワゴンは、逆再生のように逆走する。

≪不可逆≫だったはずの出来事が、この回だけは“巻き戻し”=≪反転≫ され、真紀と幹生は失踪前の振り出しに戻って離婚に至るのだ。

家森が、森に落ちていたなぞなぞの木札を裏返したり、会社の倉庫に閉じ込められた別府が助けを求めるメモは、裏返ってしまい誰の目にも触れないなど、“裏返し”=≪反転≫のイメージが積み重なっていくのも憎い演出だ。

第3話で真紀に引き留められたすずめが、この回では、夫と東京に逃げようとする真紀を逆に引き留めるという関係性の≪反転≫も気が利いている。

  • フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
     
    Twitter @f_fukusuke 

  • (c)TBS

    「カルテット」(TBS)
     
    声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成。登場人物全員がどこかしらに抱える心の穴や生き辛さを、研ぎ澄まされた台詞で優しく紡ぎ出し、「視聴率以上の価値がある」と多くの人に支持された終了した。最終回は民放公式ポータルTVer(ティーバー)で、3月28日(火)21:58まで配信。 
     
    公式Twitter/ @quartet_tbs 
    公式Instagram/ @quartet_tbs  
    公式HP/ http://www.tbs.co.jp/quartet2017/

Text : Fukusuke Fukuda

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