だから、そういうのを楽しむドラマなんです―「カルテット」は灰色のパセリたちへの賛歌である
高橋一生の萌えスマイルの攻撃力とファッションセンスの妙を実感したTBSドラマ「カルテット」。最終回を迎え賛否両論を巻き起こした、話題のドラマを福田フクスケ氏が物語を象徴する5つのワードで斬る!
【表と裏の対比】言葉と気持ちは違う
もうひとつの重要なキーワードが≪表と裏≫という対極の要素による≪対比≫だ。
第2話で家森が「言葉と気持ちは違うの」と 語る通り、この回は別府と結衣の恋模様を描きながら、すずめの別府に対する秘めた思いが≪裏≫で同時進行している。そもそも、すずめが真紀の夫殺しの疑惑を探るために、“友だちのフリ”という嘘=≪裏≫ のある関係を演じているのは言うまでもない。
そこへ、「右手で惹き付けて、左手で騙す」という真紀の義母・鏡子(もたいまさこ)の台詞や、『人魚VS半魚人』というB級映画、SPEEDの“White Love”とX JAPANの“紅”など、事あるごとに≪対比≫のモチーフ が彩りを添える。
第4話でも、この相反する要素の≪対比≫は生きている。
「結婚ってこの世の地獄ですよ。妻ってピラニアです。婚姻届は呪いをかなえるデスノートです」という家森の台詞は、元妻の前では真紀によって「結婚って天国だ。妻ってのどぐろだ。婚姻届は夢をかなえるドラゴンボールだ」に変換される。
“足が臭い美人さんと足が臭くない美人さん”をめぐる他愛ない会話や、家森を執拗に追いかけていた半田(Mummy-D)が薬(苦い)とアポロチョコ(甘い)を一緒に服用するといった何気ない場面でも、≪対比≫のイメージは連鎖していく。
第5話では鏡子が、夫殺しの疑惑がかけられている真紀を「裏表がある人」と評し、“嘘つき魔法少女”として隠れるように生きてきたすずめを「あなたの裏表」と表現することで、改めて≪表と裏≫というテーマが強調された。
「アリとキリギリス」の寓話にたとえ、4人が音楽を趣味にしたアリとして生きるか、夢にしたキリギリスとして生きるか、という≪対比≫も、第1話から続く問題のひとつである。
別府「あなたといると2つの気持ちが混ざります。楽しいは切ない。嬉しいはさびしい。優しいは冷たい。愛しいは、空しい。愛しくて愛しくて、空しくなります」(第4話より)
真紀に思いを寄せる別府のこの台詞は、本来なら対極であるはずの感情が、実は混在し共存しうるものであることを示しており、はからずもドラマ後半への大きな布石となっているのが興味深い。
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フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
Twitter @f_fukusuke -
「カルテット」(TBS)
声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成。登場人物全員がどこかしらに抱える心の穴や生き辛さを、研ぎ澄まされた台詞で優しく紡ぎ出し、「視聴率以上の価値がある」と多くの人に支持された終了した。最終回は民放公式ポータルTVer(ティーバー)で、3月28日(火)21:58まで配信。
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公式HP/ http://www.tbs.co.jp/quartet2017/
Text : Fukusuke Fukuda