特集
2017/03/24(金)
福田フクスケの「ドラマのようには生きられない」 Vol.3

だから、そういうのを楽しむドラマなんです―「カルテット」は灰色のパセリたちへの賛歌である

高橋一生の萌えスマイルの攻撃力とファッションセンスの妙を実感したTBSドラマ「カルテット」。最終回を迎え賛否両論を巻き起こした、話題のドラマを福田フクスケ氏が物語を象徴する5つのワードで斬る!

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第5話より

(c)TBS

【不可逆】唐揚げにかけたレモンは元に戻らない

「カルテット」(TBS系)は、視聴率こそ振るわなかったものの、Twitterでは毎週トレンドに上がり、劇中の伏線や時系列に関する考察で賑わうなど、大きな話題となったドラマである。
本作は、“丹念に作られたドラマは、丹念に観るに値する”という当たり前のことを改めて実感させてくれるドラマだったと思う。
 
物語は、声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成するところから始まる。
「音楽っていうのは、ドーナツの穴のようなものだ。何かが欠けている奴が奏でるから、音楽になる」という第1話の台詞の通り、登場人物はどこかしら欠落を抱えており、カーリングやコルセット、バームクーヘン、穴を埋めるクロスワードパズルといった小道具はドーナツの穴を想起させる。また、登場人物の片想いの連鎖や、最終回に第1話のモチーフが繰り返される構成などは、ドーナツの“円環構造” を意識させる。

第7話より

(c)TBS

このように、あらゆる場面や台詞がイメージでつながっていき、他愛ないやりとりが、実は物語を象徴する重要なモチーフになっていたりするのが、このドラマの見どころである。
たとえば、第1話の序盤で家森が問題提起する“唐揚げにレモンをかけるか問題”は、あるあるネタとしては今さら感の強い手垢の付いた話題だ。しかし、その何でもないような小ネタが、第1話の終盤では、夫が失踪した真紀の“夫婦関係の決定的なズレ”を象徴するエピソードとして機能する。
そして、“かけたレモンは元には戻らない”=≪不可逆≫ というキーワードは、以後このドラマの重要なテーマとして繰り返し登場することになる。
第1話では真紀が夫の失踪を明かし、第2話では、別府が友だち以上恋人未満の同僚・結衣(菊池亜希子)を結婚で失い、第3話ではすずめが確執のあった父親と死別し、第4話では家森が元妻・茶馬子(高橋メアリージュン)と息子・光大(大江優成)と訣別するなど、登場人物は順番に、それぞれにとって≪不可逆≫な喪失を経験していく。
“唐揚げレモン問題”の言い出しっぺである家森自身が、6000万円が当たっていた宝くじの交換期限を逃したこと(まさに不可逆)を後悔した発言をきっかけに、元妻から離婚を切り出されたというのも皮肉めいている。

  • フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
     
    Twitter @f_fukusuke 

  • (c)TBS

    「カルテット」(TBS)
     
    声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成。登場人物全員がどこかしらに抱える心の穴や生き辛さを、研ぎ澄まされた台詞で優しく紡ぎ出し、「視聴率以上の価値がある」と多くの人に支持された終了した。最終回は民放公式ポータルTVer(ティーバー)で、3月28日(火)21:58まで配信。 
     
    公式Twitter/ @quartet_tbs 
    公式Instagram/ @quartet_tbs  
    公式HP/ http://www.tbs.co.jp/quartet2017/

Text : Fukusuke Fukuda

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