だから、そういうのを楽しむドラマなんです―「カルテット」は灰色のパセリたちへの賛歌である
高橋一生の萌えスマイルの攻撃力とファッションセンスの妙を実感したTBSドラマ「カルテット」。最終回を迎え賛否両論を巻き起こした、話題のドラマを福田フクスケ氏が物語を象徴する5つのワードで斬る!
【両義性】行かなかった旅行も思い出になる
そして、いつだって白は黒に、黒は白に≪反転≫しうる
、ということを経験した第8話以降、物語は“物事は必ず白と黒どちらの本質もあわせ持つ”という≪両義性≫がテーマになっていく。
すずめ「行った旅行も思い出になるけど、行かなかった旅行も思い出になる」(第8話より)
第8話で、すずめの別府への片想いが貴いものとして再びリフレインされるのは、とうとう叶わなかった夢や、想像するだけの思いにも意味や価値はあるのだ、というメッセージだろう。
第9話でも、「パンツだけ履いてる人とパンツだけ履いてない人は、どっちも変態」
という話題から、「咲いても咲かなくても、花は花」「起きても寝てても、生きてる」「つらくても苦しくても心」など、4人がその場ででっちあげたニセことわざを言い合う場面によって、“物事は≪反転≫しても本質は変わらない”という≪両義性≫が繰り返し提示される。
だから、第9話でこのドラマ最大の“まさか”である、真紀が偽名を使ってみんなを騙していたことが露呈しても、すずめは決して彼女を責めない。
真紀が自分の素性と過去を言い澱んでいると、すずめは「もう何にも言わなくていい。真紀さんが昔誰だったかとか、なんにも。私たちが知ってるのはこの、この真紀さんで」と今の彼女を肯定する。
言うまでもなくこれは、第3話ですずめが過去に確執のある父親の臨終に立ち会えずにいたとき、真紀が「病院行かなくていいよ。みんなのとこに帰ろう」となだめ、すずめの煩悶を受け止めた役割の≪反転≫だ。
たとえ真紀が偽名でやましい過去を隠していたとしても、今ここにいる真紀がカルテットの4人を好きなことに嘘はない、とすずめは言う。このときの「人を好きになるって、勝手にこぼれるものでしょ」というすずめの言葉が、実は第2話で、すずめが別府に好意を抱いていることを見抜いたときの真紀の台詞だったことに注目したい。
そして、極めつけの≪反転≫が起きるのが、すずめの次の台詞である。
すずめ「真紀さんは奏者でしょ。音楽は戻らないよ。前に進むだけだよ。一緒。心が動いたら、前に進む。好きになったとき、人って過去から、前に進む」(第9話より)
“人生は巻き戻らない”こと=≪不可逆≫に振り回され、悲観してきたカルテットの4人が、ついにそれをポジティブな意味に≪反転≫させた
のだ。
もちろん、その後の場面で真紀とすずめが興じるスティックボムという棒状のドミノは、“前にしか進まない”ことの象徴。彼らは、≪不可逆≫にもネガティブとポジティブの≪両義性≫を見出したからこそ、「人生やり直しスイッチはもう押さない」という前向きな決断をすることができたのである。
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フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
Twitter @f_fukusuke -
「カルテット」(TBS)
声が小さくて心配性な巻真紀(松たか子)、どこでも二度寝してしまう世吹すずめ(満島ひかり)、理屈っぽい性格で定職に就かない家森諭高(高橋一生)、音楽家一家に生まれながらひとりだけプロになれなかった別府司(松田龍平)という4人のメンバーが、軽井沢で“カルテット・ドーナツホール”を結成。登場人物全員がどこかしらに抱える心の穴や生き辛さを、研ぎ澄まされた台詞で優しく紡ぎ出し、「視聴率以上の価値がある」と多くの人に支持された終了した。最終回は民放公式ポータルTVer(ティーバー)で、3月28日(火)21:58まで配信。
公式Twitter/ @quartet_tbs
公式Instagram/ @quartet_tbs
公式HP/ http://www.tbs.co.jp/quartet2017/
Text : Fukusuke Fukuda