ジャンル別で発表! 映画ジャーナリストの2017年BEST映画【後編】
2017/11/28(火)
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タレンタイム~優しい歌』より (C) Primeworks Studios Sdn Bhd

青春映画BEST/門間雄介さん

『タレンタイム~優しい歌』
高校で開催される音楽コンクール「タレンタイム」に向けて、それぞれの日々を送る生徒たち。彼らは恋や友情、家族の問題を抱えながら、同時にまた他民族国家マレーシア特有の民族間、宗教間の壁にぶち当たっている。そんな彼らの葛藤を、わずか6本の映画を残して夭逝したヤスミン・アフマド監督が、柔らかい光と温かい音楽のなかに描きだした。そう、この作品がすばらしいのは、光や音楽や、手話とかオナラとかいった非言語的な要素を通じて、映画以外のなににも置き換えられないエモーションを生みだしているところ。シンプルだからこそ、その感動は大きい。ラスト、コンクールの場面にはあまりにも美しい青春模様が封じこめられている。

『わたしたち』
10歳の少女が、学校で、家庭で、感じざるをえない生きづらさ。少女はクラスの仲間から無視され、仲良くなった転入生も、やがて彼女のそばを離れていく。社会の格差を背景にしたいじめ問題は、扱う題材として決して軽くはないが、それでもこの作品を重苦しさから解き放っているのは、少女たちのナチュラルな芝居だ。カメラは彼女たちの優しい息づかいを写しとり、それは観る人にいじめの過酷さより、生きることの手触りのようなものを強く実感させる。少女たちが着る衣服のパステルトーンを際立たせ、ミサンガやマニキュアといったアイテムに友情や希望を託す演出も、いちいち巧い。韓国のユン・ガンウ監督による初監督作。

『なっちゃんはまだ新宿』
高校の男子に一方的な思いを寄せる少女は、彼の話を聞くうち、いつしか彼が付きあっている“なっちゃん”のことばかり考えるように。ある日、少女の部屋のタンスから現れたなっちゃんと、夢とも現実ともつかない、不思議な関係を育んでいく。ストーリーの起点も展開も突飛ながら、1995年生まれの首藤凛監督が解きほぐしていくのは、誰の心にももやもやと絡みついている、失われてしまった大切なあの人や風景の記憶。日本の多くの青春映画が、大勢の共感を得ようとして“広く、浅く”しか描かないものを、この作品は“狭く、深く”掘り下げることで、あなただけの、私だけの青春映画を作りあげている。本当に観たいのは、こんな青春映画。

●BEST女優
瀧内公美
たぶん役者には、その時、その瞬間でなければ演じられない役柄があって、その幸運を手にできた者だけが一生に一度の類まれな演技を披露することができるのだろう。『彼女の人生は間違いじゃない』で瀧内公美が見せる芝居はまさにそれ。週末だけ福島から上京し、デリヘルで働く女性に扮した彼女の、人生をすべてぶつけるような芝居が生々しかった。

●BEST男優
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
『バリー・シール/アメリカをはめた男』『ゲット・アウト』、それからドラマ『ツイン・ピークス The Return』まで、今年最高にイカれていて、最高にクソ野郎だったのがケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。ざらつく白い肌に繊細さと粗暴さをあわせもつ彼から目が離せなかった。来年公開のオスカー有力作『スリー・ビルボード』では新境地も。

  • 門間雄介/編集者、ライター。雑誌「AERA」「BRUTUS」「CREA」「Hanako」「Harper's BAZAAR」「POPEYE」「週刊文春」、WEB「リアルサウンド映画部」などに執筆中。書籍「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト」なども手がける。

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