ジャンル別で発表! 映画ジャーナリストの2017年BEST映画【後編】
2017/11/28(火)
> <

2/5

ドリーム』より (C)2016 Twentieth Century Fox

人間ドラマ映画BEST/石津文子さん

『ありがとう、トニ・エルドマン』
ルーマニアで経営コンサルタントをするイネスを心配し、疎遠だった父親がドイツから突然やってくる。この父親がイタズラ好きで、偽名でドイツ大使になりすましたり(題名はここから)、着ぐるみで登場したり、オヤジギャグを連発したりと、うざったいことこの上ないのだが、コミュニケーション能力は抜群で、大笑いしつつ、気づけば涙が止まらなくなってしまう。どこの父親も娘は3歳くらいで止まって見えるのだろう。また、エリートの娘vsお金より人生を謳歌する父親の構造は、現代のヨーロッパ社会を象徴してみせてもいる。こんなお父さん、面白いけど実際にいたら大変だと思っていたら、なんと監督マーレン・アデの父親がモデルになっているそう。あらら!

『わたしは、ダニエル・ブレイク』
「ゆりかごから墓場まで」と言われた英国の手厚い社会保障制度も、昔の話。心臓病で退職した59歳のダニエルは、まるで弱者を翻弄するような煩雑な手続きのため、正当な年金を受けられず困窮する。さらに悲惨な目に遭うのが、若きシングルマザーのケイティ。飢餓状態にあり、フードバンク(食べ物を分けてくれるボランティア施設)で缶詰を手づかみで貪るように食べてしまい、自分の惨めさに泣き出す。ダニエルが彼女を「君は悪くない。自分を責めてはいけない」と慰めるシーンは、今年の映画の中で最も切実なシーンだった。世界中が格差社会に陥る中、彼らの姿は他人事ではない。真面目な人ほど、追いつめられていく。しかし辛いだけではなく、ケイティが逞しくなっていく姿に希望を感じる。 

『ドリーム』
人種差別、女性差別が激しかった1960年代、NASAの宇宙開発を陰で支えた天才数学者キャサリン・G・ジョンソンら実在の女性たち。計算室に閉じ込められていた彼女たちは、類いまれな能力と強い心で、文字通り差別の壁を壊していく。原題”HIDDEN FIGURES”は「隠された数字」と「知られざる人物」のダブルミーニングで、隠れた存在だった彼女たちだけでなく、すべてのマイノリティの人々へ捧げられている。仕事だけでなく、ハンサムな男性(『ムーンライト』もマハーシャラ・アリが素敵)に「女性のくせにすごいね」と言われたら、ぴしゃりと撥ね付ける姿は、爽やかでかっこいい。日本は男女格差が世界114位という最低レベル。彼女たちの精神を繋いでいかなくては!

●BEST女優
イザベル・ユペール(『ELLE エル』)
サイコパス寸前のメンタル強過ぎ、やり過ぎヒロインが最高。行くところまで行ったと思われたユペール先生だが、まだまだ境界線を超えていきそう。彼女のようなエロスとエスプリたっぷりな60代を目指したい。

●BEST男優
ジョエル・エドガートン (『ラビング 愛という名前のふたり』)
静かなる男が絶品。静かさの中に愛する女性のためにすべてを懸け、異人種間結婚を禁じた法律を変えてしまうほどの強さを持つ男を、激しい表情に頼ることなく見事に表現。

  • 石津文子/カンクンに大はまり中の映画評論家。マダムアヤコとしてカンヌ映画祭レポーターやコラムも執筆。新しい地図のスタートに心躍り、NAKAMAになりました。稲垣吾郎ちゃんのブログ、面白いなあ。映画『クソ野郎と美しき世界』も早く観たい!

SHARE THIS ARTICLES

前の記事へ特集一覧へ次の記事へ

CONNECT WITH ELLE

エル・メール(無料)

メールアドレスを入力してください

ご登録ありがとうございました。

ELLE CLUB

ようこそゲストさん

ELLE CLUB

ようこそゲストさん
ログアウト