ジャンル別で発表! 映画ジャーナリストの2017年BEST映画【前編】
2017/11/23(木)
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ELLE /エル』より (c)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

サスペンス映画BEST/久保玲子さん

『メッセージ』
突如、巨大な飛行物体が現れ、言語学者ルイーズは謎の異性物とコンタクトを取る手段をさぐる。今年は『ブレードランナー 2049』もあり、話題のドゥニ・ヴィルヌーヴがSF、サスペンスの概念を大きく覆し、人間とは、時間とは何かをスリリングに問いかける。パニックに陥った男たちが核爆弾をぶち込もうとする中、静かに墨絵のような異界の文字と対峙するルイーズ役のエイミー・アダムスが素晴らしい。なぜ彼女がアカデミーにノミネートされなかったのか腹立たしいほどに。やがてマックス・リヒターの「On the Nature of Daylight」に包まれて、たとえ悲劇が待っていたとしてもこの人生を選択するかという問いに、ルイーズが下す決断に滂沱の涙! 

『ELLE /エル』
独り暮らしの女社長が覆面男に襲われる。ところが何喰わぬ顔で普段通りに生活する一方で、レイプされても性欲残っててよかった~と安堵する一方で、護身グッズを買い込んで自ら犯人を探すべく男たちに目を光らせる。暴力に対する強烈なトラウマを持ち、そんじょそこらのことでは驚かないし、警察なんて信用ならんというヒロインの行動がとにかく常識を突き抜けてサスペンスフル。監督ヴァーホーヴェンは『氷の微笑』や『ショーガール』でしたたかな女とダメ男を描いてきた筋金入りのフェミニストだが、今回はイザベル・ユペールという怪物を得てスケール・アップ。しかもヒロインの周りの逞しい女たちや、フランスの撮影監督によるセンシュアルな映像が加わり、大人のブラック・サスペンスに仕上がった。

『ノクターナル・アニマルズ』
『シングルマン』がビギナーズ・ラックじゃなかったことをこれでもかと見せつけたトム・フォードの監督第2作。モダン・アート界で成功したスーザンのもとに、元夫が書いた小説が届く。果たして彼の真意はどこに……!? スーザンの心理を瞳の僅かな動きだけで表現するエイミー・アダムスに、執念深げなジェイク・ギレンホール、フォードのテキサス時代のトラウマを落とし込んだ映画内小説に登場するマイケル・シャノンとアーロン・テイラー=ジョンソン(別人かと思うほど凶暴でセクシー!)らキャスティングも見事。華麗なアートや衣装をちりばめ、計算され尽くしたスクリーンの中、ゲームを仕掛けられたスーザンの孤独と悔恨が蒼く凍りつく!

●BEST女優
イザベル・ユペール(『エル/ELLE』)
『メッセージ』『ノクターナル~』のエイミー・アダムス、アートな妄想をくすぐるエル・ファニング。女優の活躍目覚ましたかった2017年だが、最も圧倒されたのは、鬼才ヴァーホーベンの上をゆく肝っ玉を見せつけた63歳ユーペル様 

●BEST男優
アダム・ドライバー(『パターソン』『ローガン・ラッキー』)
父ハン・ソロを葬ったカイロ・レンは、『沈黙』では神の奇跡と信じるイエズス界修道士。ささやかな日常を慈しむ『パターソン』から『ローガン・ラッキー』の片腕の強盗へ、で今年の締めは再び闇の戦士という振り幅大きな活躍を讃えて。

  • 久保玲子/エル・ジャポン、ハーパース・バザー、キネマ旬報等の雑誌やオンラインに映画評、インタビューを執筆。寒さが身に沁みるこの頃、『ぼくの名前はズッキーニ』や『シェイプ・ザ・ウォーター』を想い、心の暖をとっております。

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