ジャンル別で発表! 映画ジャーナリストの2017年BEST映画【前編】
2017/11/23(木)
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『新感染 ファイナル・エクスプレス』より (C) 2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.

アジア映画BEST/高橋諭治さん

『立ち去った女』
ここ数年、次々と野心的な作品が生み出され、国際映画祭を席巻するフィリピン映画。巨匠ラヴ・ディアスがヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞した本作は、いわれなき殺人罪で30年間投獄された中年女性の物語。冤罪が証明されて出所した彼女が、自分を破滅に追いやった元恋人への恨みを晴らそうとする姿を映し出す。ところが大富豪の元恋人が住む町にやってきた主人公の計画はどんどん引き延ばされ、ありきたりな復讐劇のプロットを逸脱。孤独な男娼らの社会の底辺に生きる人々との交流が描かれ、魂の救済などの深遠なテーマへと踏み入っていく。3時間48分、謎めき続けるモノクロの映像世界には、破格の神秘と衝撃が渦巻いている。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』
ソウル発プサン行きの高速鉄道KTXの車内で、未知のウイルスに感染した乗客が凶暴化。いわゆる感染パニック系のゾンビ・ムービーなのだが、サバイバル・アクションとヒューマン・ドラマを力強く合体させ、ホラー映画ファンにとどまらない幅広い層の観客を熱狂させた韓国映画である。とりわけ極限状況下の夫婦や親子の絆を演じたキャストが素晴らしく、仕事人間のファンド・マネージャー役のコン・ユと愛妻家のマッチョ男に扮したマ・ドンソク、そして健気でいじらしい子役のキム・スアンが泣きどころの名シーンを連発。全編が手に汗握るスリルと熱い情感に貫かれた、堂々たるエンターテインメント大作だ。

『哭声/コクソン』
韓国の田舎町で動機なき猟奇殺人事件が続発。地元の警察官ジョングは、近くの山に住みついた怪しげな日本人が災いをもたらしているのではないかと疑うが……。日本でも大反響を呼んだクライム・スリラー『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督が、オカルト要素をはらんだホラーという新境地に挑戦。善と悪がわかりやすく分別されるキリスト教圏のホラーとは異なり、住民を襲う厄災の原因が不明のまま奇怪な物語が展開。はたして悪魔は実在するのか、それとも人間の弱さと不安こそが惨劇を招いているのか。カリスマ的な存在感が韓国で絶賛された國村隼、祈祷師役のファン・ジョンミンの怪演も圧巻の1本。

●BEST女優 
エイミー・アダムス(『メッセージ』『ノクターナル・アニマルズ』)
5度のアカデミー賞ノミネート歴を誇る人気女優のキャリアは今年も充実。謎の宇宙船出現から始まるSF『メッセージ』では言語学者のヒロインの数奇な運命を感動的に体現し、アーティスティックなスリラー『ノクターナル・アニマルズ』では姿なき元夫の復讐にあえぐ女性の変容をスリリングに演じきった。

●BEST男優 
アダム・ドライバー『パターソン』
『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レン役でスターの仲間入りを果たした個性派俳優が、ジム・ジャームッシュ監督とのタッグで繊細かつ飄々とした魅力を発揮。アマチュア詩人のバス運転手という風変わりな役どころで、微笑ましくも危うげに現実と夢の狭間をたゆたう演技が印象深い。

  • 高橋諭冶/純真な少年時代に恐ろしい映画を観すぎて、いつの間にか人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞、映画com.などで映画評を執筆しながら、世界中の怪しくて謎めいた映画と日々格闘中。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師もやってます。

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