恋愛映画BEST/細谷美香さん
『ラ・ラ・ランド』
女優志望の女の子と昔気質のジャズピアニストの恋と夢と現実。『セッション』で脚光を浴びたデイミアン・チャゼル監督が、『シェルブールの雨傘』をはじめ、ミュージカルの名作に目配せしながら、現代的なアレンジを加えています。古典的なボーイ・ミーツ・ガールを彩るジャズのリズムと軽やかな歌、総天然色の映像で映し出されるダンスにうっとり。渋滞するフリーウェイで車から路上に飛び出して歌い踊り出す人々をワンカットで撮ったオープニングや、丘の上でシューズに履き替えてはじまるタップダンス、プラネタリウムを見ながら夜空へとふわりと浮かんでいくふたり……、ロマンチックで忘れがたい名シーンがたくさん!
『カフェ・ソサエティ』
大物エージェントとして活躍する叔父を頼り、ニューヨークからロサンゼルスへとやって来た青年、ボビー。雑用係として働きはじめた彼は美しき秘書のヴェロニカに心奪われるものの、彼女はわけありの恋愛中。そしてボビーは数年後……。狂騒の時代のハリウッドと、セレブリティたちがグラスを傾けるニューヨークの社交界。ゴールデンエイジのふたつの街を舞台にした“一粒で二度おいしい”ラブストーリー。もしもあのとき、もうひとつの道を選んでいたら? という甘くて苦い大人の後悔を描いた物語は、ウディ・アレン版『ラ・ラ・ランド』ともいえるかも!? クリステン・スチュワートら女優陣が着こなすシャネルの衣裳も物語を華麗に盛り上げています。
『パリ、恋人たちの影』
妻のマノンの献身的なサポートに支えられながら、ドキュメンタリー映画を制作しているピエール。ある日、ピエールの不倫相手の若い研修生が、マノンが別の男性と会っているところを目撃してしまいます。彼女はその事実をピエールにも伝えますが……。『恋人たちの失われた革命』など愛の物語を撮り続けるヌーヴェルバーグの恐るべき子供、フィリップ・ガレル監督の作品。“夫婦げんかは犬も食わない”もガレルの手にかかれば、色香漂う洒脱なラブストーリーに。パリの街とそこに暮らす男と女を切り取った美しいモノクロの映像、そして静かなナレーションが60年代のフランス映画のような香りを運んできます。
●BEST女優
イザベル・ユペール (『未来よ こんにちは』)
知的で皮肉の効いたジョークが上手で、いつも早足で歩く主人公にユペールの個性がぴたりとはまっています。ユペールが見せた人生のあらゆるできごとを否定も肯定しない前向きな諦念ともいうべきあの境地、いつかは達したい!
●BEST男優
アダム・ドライバー(『パターソン』)
バスの運転手をしながら詩を綴っている主人公を演じたアダム・ドライバー、わかりやすい表情を見せているわけではないのに詩を感じさせる顔面力あり。永瀬正敏と並んで座るシーンの多幸感も、素晴らしかったです。
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細谷美香/映画ライター。女性誌や映画誌を中心に『毎日新聞』『pen』などで映画紹介、インタビューを担当しています。主演女優賞をさらに何人か選べるとしたら、誇り高きヒロインたちを演じた『ドリーム』のタラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、『お嬢さん』のキム・ミリ、キム・テリにもあげたいです。