特集
2016/11/14(月)
ELLE CINEMA AWARDS 2016

映画ジャーナリストが選ぶ、2016年のベスト映画【前編】

エルでおなじみの映画ジャーナリスト11名が、部門別に2016年のベスト映画&俳優を選出。映画を知り尽くしたプロたちが選んだベスト3を、前編、後編の2回に分けてお届け。

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『FAKE』公開中 ©2016「Fake」製作委員会

ドキュメンタリー映画部門BEST3/高橋諭冶さん

『FAKE』
『A』『A2』の森達也監督が、あの“ゴーストライター問題”で世間を騒がせ、表舞台から姿を消した佐村河内守氏への取材を敢行。佐村河内氏の自宅マンションにカメラを持ち込み、バラエティ番組への出演交渉にやってきた民放テレビ局関係者とのやりとり、外国人メディアによるインタビューなどの様子を映し出す。それ以上に面白いのは、自宅内でも常にサングラスをかけ、真意を容易に読み取らせずに謎めき続ける佐村河内氏と、手話を駆使して彼をサポートする妻との関係性。クライマックスにはあっと驚く展開が待ち受け、“偽物”や“まやかし”といった意味を持つ題名が頭の中をぐるぐる駆けめぐる異色作だ。

『シチズン・フォー/スノーデンの暴露』
アメリカ政府が一般市民や同盟国のメールや携帯を監視していた情報収集プログラムの恐るべき実態を暴露し、一躍“時の人”になったエドワード・スノーデン。本作はCIAとNSA(国家安全保障局)の職員だったスノーデンがハワイのオフィスを抜け出し、香港の高級ホテルの一室で映画監督のローラ・ポイトラス、英国ガーディアン紙の記者と初めて対面したときの様子を克明に記録したもの。巨大国家権力を敵に回したスノーデンの覚悟、その勇気ある告発を世に知らしめようとするジャーナリストの執念が、異様な緊迫感みなぎる映像からひしひしと伝わってくる。オリバー・ストーン監督作品『スノーデン』(2017年1月27日公開)と併せて鑑賞したい。

『シリア・モナムール』
今なお混迷が続くシリア紛争の初期にパリへ亡命した映画作家オサーマ・モハンメドが、ネット上にアップされたおびただしい数の動画を編集。銃撃と爆撃、市民への拷問、血に染まる大地……。そんな祖国の惨状を憂い、無力感に襲われるモハンメドのもとに、シリアのホムスにとどまる女性シマヴからのメッセージが届く。ふたりがフェイスブックの受信音、キーボードの打鍵音とともに交わす言葉と映像が痛ましい現実を超えた詩のように揺らめき、廃墟の町に咲く花や傷ついた動物たちを捉えたショットに胸を衝かれずにいられない。アラン・レネ監督の『ヒロシマモナムール(二十四時間の情事)』(’59年)へのオマージュもこめられた衝撃的な一作。

●ベスト男優
マット・デイモン(『オデッセイ』)
マット・デイモンの最大の当たり役といえば“ジェイソン・ボーン”だが、本作の宇宙飛行士役も彼のまっさらな個性がフルに発揮されたキャラクターだ。火星に独りぼっちで取り残された究極の絶望的状況のもと、半ば開き直って“生きる”というミッションに挑戦。自然体の演技からこぼれるユーモアに何度も笑わされ、胸が熱くなる!

●ベスト女優
シャーロット・ランプリング(『さざなみ』)
イギリスの田舎で穏やかに暮らす老夫婦のもとに届いた一通の手紙。それをきっかけに45年間連れ添ってきたふたりの間に修復不可能な溝が生じ出す。夫に対する妻の不信や嫉妬を“怨念”の域に高め、さらには“狂気”すら垣間見せるシャーロット・ランプリングの演技は鳥肌ものの迫力。戦慄のラストには「あっ!」と叫びそうになりました。

  • 高橋諭冶/純真な少年時代に恐ろしい映画を観すぎて、いつの間にか人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞、映画com.などで映画評を執筆しながら、世界中の怪しくて謎めいた映画と日々格闘している。

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