特集
2016/11/14(月)
ELLE CINEMA AWARDS 2016

映画ジャーナリストが選ぶ、2016年のベスト映画【前編】

エルでおなじみの映画ジャーナリスト11名が、部門別に2016年のベスト映画&俳優を選出。映画を知り尽くしたプロたちが選んだベスト3を、前編、後編の2回に分けてお届け。

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『ハドソン川の奇跡』公開中 photo: aflo

人間ドラマ部門BEST3/石津文子さん

『ハドソン川の奇跡』
NY上空でエンジンが完全停止した旅客機。ベテラン機長サリーの英断によりハドソン川へ緊急着水し、155名全員が生還する。サリーは一躍英雄となるが、その裏で事故調査委員会は「過失があったのでは?」と彼と副機長を査問にかけていた。監督クリント・イーストウッドは『アメリカン・スナイパー』に続き、英雄談に隠された過酷な現実と葛藤を、情緒を排して追いかけて行く。サリーはイーストウッドが理想とするプロフェッショナル=平常心を保てる人物であり、トム・ハンクスも抑制された演技でそれに応える。だからこそサリーを時々襲う「もしも」の悪夢(IMAXカメラがド迫力)が緊迫感を生む。ハッピーエンドを知っていても、本当にハラハラする!そして、コンピューターより人間力と実感。

『リリーのすべて』
リリーを演じたエディ・レッドメインが、とにかく儚く、美しい。その幸福を願いたくなるし、哀しみも胸に迫る。世界で最初に性別適合手術を受け、リリー・エルベとなったデンマークの画家アイナーと、その妻ゲルダの愛と葛藤。夫の心が女性であることを最初はなかなか受け入れられなかったゲルダが、身も心も女性になりたい、というリリーの希望をかなえるために奔走する。その葛藤と深すぎる愛情に涙したし、ゲルダ役アリシア・ヴィキャンデルの演技力にも感嘆。撮影時26歳でここまで掘り下げられるとは、末恐ろしい。リリーの選択には、真実の自分で生きるということは、自分探しなどという生易しいものではないことを思い知らされる。同時に、愛する人がいることの価値も。

『サウルの息子』
アウシュビッツで、ユダヤ人をガス室に送り、その死体を灰にし、床の血を拭く。その苦役は同胞のユダヤ人に課せられていた、ということにまず衝撃を受けた。苦役に就いたサウルは、目を閉ざしたかのように、淡々と仕事をしていく。それゆえか、カメラは非常に狭い範囲にしかピントをあわせない。現実を見たくない、しかし起きているのだ、という象徴のようだ。サウルは死体の山の中に、まだ息をしている少年を見つけるが、すぐに殺されてしまう。少年を自分の息子だと主張するサウル(しかしサウルに息子はいないと友人は言う)は、ユダヤ教式に埋葬しようと奔走する。死の工場で、死の儀式をすることが、唯一の生の意味となる、この矛盾。目をそらしてはいけない。

●ベスト男優賞
イ・ビョンホン(『インサイダーズ/内部者たち』)
芸能界と裏社会をつなぐゴロツキの嫌らしさをたっぷりと見せつつ、後半は別の顔も見せる。スキャンダルを逆手にとって演技に活かす、ビョンホンの底力に感心。男くささの中に、愛嬌を混ぜ込むのがうまい!『マグニフィセント・セブン』も楽しみ。

●ベスト女優賞
レニー・ゼルウィガー(『ブリジット・ジョーンズの日記・ダメな私の最後のモテ期』)
顔が変わったとさんざんな言われ方をしていたレニーだが、三たび演じたブリジットでは見事なコメディエンヌぶりと、かわいい太っちょぶりを発揮。47歳でここまでドタバタとかわいいダメ女を演じられるのは、演技力のたまもの。

  • 石津文子/映画評論家。マダムアヤコとしてコラムや番組出演も。カンヌなど映画祭まわりで家が片付かないのが悩み。2016年はデヴィッド・ボウイの死とSMAP解散(まだ信じてない!)に心が揺れっぱなしだが、片岡仁左衛門丈に癒してもらっています。今年会った人で一番インパクトがあったのはイザベル・ユペール。大人のエスプリにやられた!

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