- 【第二回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
- 【第三回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
- 【第四回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
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今もグラミー賞に注目する意味があるのかどうか、改めて考えてみました
もしかすると、読者の皆さんのなかには「グラミー賞って、まだチェックする必要あるの?」と思う方もいるかもしれません。映画の世界におけるアカデミー賞でも日本のレコード大賞でも何でもいいんですが、歴史のある権威的なアワード全般の信憑性に疑いの目が向けられるようになった時代に我々は暮らしていますから。そうなったいちばんの理由はエンターテイメント産業全体の構造変化によるものです。
ポップ音楽の世界に限定すると、特に欧米ではフィジカルCDはほぼ売れません。というか、もうCDショップがもはや存在しないです。欧米ではストリーミングサービスの一般化によってリスナーの音楽体験がすっかり様変わりしてしまった。そうした変化のなかから新たなメガヒットが生まれたり、ニューカマーが発見されるようになった。でも、旧来然とした権威的な視点はそうした現実の変化に追いつけなくなってしまった。そういう現状があります。
例えば、そういった状況の変化に適応するために、ビルボードの集計方法がストリーミングの回数を換算するように変わりました。すると、ここ数年、ほぼチャートとして機能してなかった退屈な全米ビルボード・チャートがいきなり活き活きしてくるようになった。例えば、今のアイドルやアニソンだらけの日本のオリコン・チャートを見ても何が何のことやらよくわかりませんよね。何の参考にもなりません。ところが、今の全米ビルボード・チャートはポップ、ヒップホップ、R&B、ロック、インディと、さまざまなジャンルのポップソングがチャートインしていて、毎週それをチェックするだけで楽しいし、何かしらの発見があります。となると、メガヒット曲が次々と生まれるようになった。多くの人が聴いている曲がわかるし、それにバリエーションがあるし、総じてチャートにきちんとした説得力が戻ってきたんです。乱暴に言うと、民意が反映されるようになった、ということです。
Text: soichiro tanaka Photo: Getty, Aflo
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田中宗一郎/音楽サイト「ザ・サイン・マガジン」のクリエイティブディレクター、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『ロッキング・オン』副編集長を務めたのち、1997年に自ら音楽雑誌『スヌーザー』を創刊。その後、2013年秋にWEBメディア「ザ・サイン・マガジン」を開設。『スヌーザー』がオーガナイズするクラブイベント、クラブ・スヌーザーは全国各地にて現在も開催中。@soichiro_tanaka